2014年8月25日月曜日

奇遇

昨日見た奇妙な夢をインスピレーションに書いてみました。

 僕は必死に密林を駆け抜けようとしていた。ただひたすら、無心に走っていた。何から逃げるわけでもなく、何かへ向かうわけでもなく。
 気がつけば開放的な空間にいた。前方には視野に入りきらないほどの広く美しい湖が広がっていた。そびえ立つ木々の隙間から射し込んだ一本の光線が、湖を柔らかく包み込んでいた。その光は水の中の何かに反射し、無数のダイヤモンドのように幻想的な輝きを放っていた。その空間はまるで絵のように静止しているかのようだったが、ある方向から水面にできる細かい波が僕の目に止まった。
 おそるおそるその波動を辿ると、そこには見たことのない奇妙な生物が気持ちよさそうに、日向ぼっこしていた。湖の真ん中に堂々と立っていたその生き物の姿は凛々しく見ている者に清々しい印象を与えた。また、その生き物は銅像と間違えてしまうほどびくとも動かず、顔を上に向けた状態で暖かい太陽の光を浴びていた。
 その見た目はなんとも言えないものだった。きりんの首を山羊の体に植え付けたような体形で、額からは象牙のような立派な角が突き出ていた。体中に美しいプラチナ色の毛が生えていて,水に浮かせた毛深い尾っぽが時折波を打っていた。僕の見た波もそのせいだったのだろう。毛深い体のところどころにできたハゲはきっと深い傷を負ったせいであろう。そこに生きた長い歳月が感じられた。ぎっしり生えた体毛は首元までで、長い首の途中には奇妙に盛り上がった出っ張りがあり、まるで人間の喉仏に似ていた。その首は異常なほど長かったが、不気味なぐらい人間の首に似ていた。僕がその生き物に近づくにつれ 、その肌もどんどんと人間らしいものに変わっていくように見えた。
 そして次に見たものは、ぼくの肝を震わせ、背筋を凍らせた。その長い首の先にあったのは、なんと人間の顔だった。それも、やや老けた中年のおじさんの顔だ。顔の皮膚は全体的に垂れ下がっており、顔面シミとほくろで覆われていた。垂れた目とまゆげは弧を描き、一見優しく微笑んでいるかのように見えたが、その深い瞳の中に途方もない深い悲しみをのぞかせていた。微笑みの表情の裏にあった哀しみの背景がなぜかぼくには伝わった。なぜなら、あれはただのおじさんの顔ではなかったから。ぼくにしかわからない顔だったから。紛れもなく、ぼくの亡き祖父の顔だったから。
 その瞬間、ぼくは猛烈に嫌な予感がした。アレルギー反応を起こした体が異物をとっさに吐き出さそうとするようにその感情は涌き上がった。次にめまいと激しい吐き気が体を襲った。足も竦んで、まともに立つことすらできなくなった。しかしこれをなんとか写真に収めなければ。意識が薄れる中、首にかけられた一眼レフを手に取った。急いでカメラを顔に当て、レンズをフォーカスした。そしてファインダーの先には...まだその生き物はいた 。さあ、あとはシャッターを押すだけ。だが指先になぜか力が入らなかった。どれだけ脳から指示を送っても、指はピクリとも動かなかった。
 そう必死にもがいていると、突然その生き物は背中を丸め、穴の空いた風船の様に縮み始めた。数秒のうちに新しく二本の長い腕と脚を生やし、小さいカエルへと変貌した。そして、ほんのわずかではあったが、こちらの方に顔を向け、微笑んだように見えた。それに気づいたぼくはとっさにカメラを顔から下ろしたが、カエルはもう湖の中へと消えていた。何もできないままに残されたぼくは、しんとした湖の静けさに再び包まれた。

そういえば先週、祖父の命日だった。夢で再び会えたのもそのせいだろうか。奇遇だ。


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1年  DL  河野勇介

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