2015年12月11日金曜日

あるいはそうかもしれない


僕は部室までの道を自転車ですごい勢いで駆け抜けた。夜の道はやたら寒くって、口から漏れ出る白い息が僕の後ろへ流れていった。
やっとの思いで部室にたどり着くと、僕はさっと扉を開けてすべりこむように中に入り、二階へ駆け上がった。

僕は絶好のタイミングで部屋に着いたようだ。僕が部屋に入ると彼はちょうどパソコンに一通り文章を打ち終わり、一息ついていたところだった。

「意外と早かったやん」と慣れないスーツを着ている彼は言った。
「まあな」と僕は言って、鞄を机の上に放り投げた。「全速力で向かったからね」

二階の部屋には彼の他に、もう一人作業をしている女の子がいた。彼女は僕の方を振り向いたが、僕を見てお疲れ、とだけ言うとすぐに振り返ってパソコンを見つめた。やれやれ、僕にはまるで興味が無いようだ。実際、数十秒後には僕がこの部屋にいることなんてきっと忘れているだろう。

僕が上着を椅子にかけながらゆっくりと座ると、彼も同じようにゆっくりと斜め前の椅子に腰をおろした。
「さてさて、どないする?」改まって彼は僕に尋ねた。

彼の関西弁とはもう三年近い付き合いだけれど、初めて会った時はひどい違和感だった。僕は長野で生まれて神奈川で育ったから、関西弁を喋る友達なんてほとんど初めてだったんだ。その時は関西人はみんな面白いことを言うんだとばかり信じ込んでいたけど、今となってはそんなことはぜんぜん思わなくなったね。

そんなわけで僕は起動したパソコンの画面をおもむろに彼の方に向け、システムについて説明をはじめた。システムは文系の僕でも簡単に使いこなせるものだった。僕達が導入するしないにかかわらず、そのシステムは十分に魅力的なものであった。

「意外と簡単やな」と彼は言った。
「ああ」僕は頷いた。「みんなが使うかどうかはまた別の話だけどね」
「いや、でも真面目な話、いけると思うで」
「いける?いけると思うかい?確かにとても良いシステムだとは思う。けれどこのシステムは完璧だとは思えない。」
「完璧なシステムなんてもんはないで。完璧な言葉が存在せえへんようにな」
彼は興奮気味に言った。わかるような気がすると僕は言ったが、その本当の意味が理解できたのはそれからずいぶん後のことだった。

「とりあえず」僕はパソコンを閉じて彼の方を向いた。「試しに僕達だけでやってみよう」
「せやな」
「淳たちにも言っておこう」
「もちろん」

僕は全員がこのシステムに対して良い表情を作るとは思っていない。人間というのはだいたい二つのタイプに分かれる。つまりシステムに対して革新的な人間と保守的な人間だ。べつに前者が物事をより深く考えていて、後者がその逆で、という訳ではなく、ただ新しいシステムが好きか嫌いか、という極めて単純な話である。

とはいえ、説明と導入に関しては時期を選ばなければならない。そしてたぶん、今はその時期じゃない。そう、物事のタイミングを間違えるとろくなことにならないと、僕はうすうす気がつきはじめていた。

やれやれ、僕達はだいぶ遅くまで話し込んでしまっていたようだ。女の子はさっさと仕事を終わらせていつのまにか帰ってしまっていたようだ。
僕は腕時計に目をやった。そして「帰らなくちゃ」と言って立ち上がった。僕は足早に部室をあとにして家に向かった。
あたりはやたらと冷え込んでいて、僕はマフラーを深く巻き直してまた自転車に乗った。






「投稿、遅れたんだって?」
「あるいは…いや、ごめんなさい」
3年 高野

0 件のコメント:

コメントを投稿