偶然の出会い

20031129J1リーグ
横浜Fマリノスは3位で迎えた最終節、首位ジュビロ磐田との直接対決を後半ロスタイムの逆転ゴールで勝利した。2位の鹿島アントラーズが後半ロスタイムに失点して追い付かれたため、マリノスの逆転優勝が決まり、スタンドとピッチが歓喜に沸いた。当時はこれがどれほど奇跡的なことかもわからなかったし、ロスタイムをたまたまテレビで観ていただけだけど、自分をサッカーに引き込むのには十分でした。久保竜彦選手の逆転ゴールのシーンは今でも鮮明に覚えています。





この時以来、自分はずっとサッカーに取りつかれています。なぜなのでしょうか。たぶん最初に真剣に取り組み、成長を実感させてくれたのがサッカーだったからです。他のものでもよかったのかもしれない。それでも、サッカーだったからこそ、プロになるわけでもない自分が大学まで続けてきたのだと思います。
サッカーは最高です。勝利のとき、チームメートが点を取ったとき。今年は前者に13回、後者に50回も立ち会うことができました。頼もしい同期、後輩に感謝です。他にも失点を防いだとき、球際で勝ったとき、駆け引きで相手を出し抜いたとき、ポジショニングで相手の陣形を破壊した時。あげていけばキリがありませんが、サッカーは多くの喜びを味わわせてくれました。



しかし、自分にとっての大学サッカーはそのほとんどが苦しい時間でした。1年の10月にすねの骨を折りました。2回の手術で右足の感覚は弱くなり、復帰までに8カ月以上かかりました。2年の11月、ようやくスタメンをつかんだ矢先に、左膝の後十字靭帯を損傷しました。3年の前期、開幕戦のスタメンに自分の名はありませんでした。そして3年時はチームの体制が本当によくなかった。不必要なストレスにさらされてサッカーをし続けた結果、サッカーを嫌いになりかけました。あんなにサッカーをみるのが大好きだった自分が、この年はほとんどサッカーをみることができませんでした。入院時のフラッシュバックが再発し、何回か練習を休んでチームに迷惑を掛けました。そんな自分がたまらなく嫌でした。
3年のシーズンが終わったとき、自分の中を占めていたのは少しの満足感と多くの虚無感でした。リーグ戦に何試合かスタメンとして出ることができた一方で、今年の結果は自分がいなくても変わらなかったな、と感じていたのを覚えています。何のためにやっているのか見失いかけていて、泥沼にはまっている感覚でした。



こんな状況を救ってくれたのは、サッカーとの偶然の出会いが導いてくれた仲間たちでした。

主将の中沖隼。彼はそんな状況に見かねて自分を怒りました。彼はチームの体制を変えようと誰よりも動いて、体制を変えてくれました。そんな男がまだ自分のことを必要としてくれている。それは消えかかっていた火を灯すのに十分でした。
冬オフにグラウンドに行ってもジムに行っても、いつでも誰かしら同期のプレイヤーがいました。彼らのラストイヤーにかける意気込みに心を動かされたことは言うまでもありません。
それと学生コーチの山口遼。3年時、私はフィジカル的な部分を評価されて試合に出てはいましたが、そこにおいて私は凡庸な選手で、大した活躍はできませんでした。彼はしっかりとしたプレーモデル、戦術をチームに導入し、戦術理解度という評価軸ができました。彼はその部分において自分に絶大な信頼を置いてくれました。
頭を使うサッカーの楽しさ。進学校で自由な環境だったからこそ、自分なりに考えてやってきたサッカーの楽しさを彼はもう一度思い出させてくれました。
みんな、本当にありがとう。



今シーズン、遼が与えてくれた役割は自分には大きすぎるものだった気がします。偽サイドバック、守備固め時のセンターバック。戦術の肝となる部分を任せてもらえ、役割が自分を成長させてくれた部分もあったと思います。おかげでとても充実したシーズンでした。マリノスと同じ戦術を採用していたのも個人的には感慨深かったです。


前期の間はとにかく必死で、しんどかったです。去年大した活躍もしてない自分が周りの選手からどれだけ評価されているかわからない。それでもDFとして声を出して、チームを引っ張らないといけない。サッカーについてよく知っている小椿と遼からの賛辞が心を支えていた気がします。そんな中で中沖が出場停止になったとき、ゲームキャプテンを任されたのはめちゃくちゃ嬉しかった。テクニカルの作ってくれた前期総括が自分に自信をつけさせてくれました。
中断期間には都1部のチームとトップチーム同士で試合をして、31敗でした。自分自身のプレーもかなりの部分が通用したし、駆け引きのレベルが2部より上がって楽しかった。
後期は自信を持って当たり前のことを当たり前にしていたら優勝していた。そんな感覚です。


サッカーの神様には何度も裏切られてきたけど、この半年間、とりわけ帝京戦のゴールの時には微笑んでくれたと思います。昇格を決めた首位攻防戦での決勝点。なかなか貴重な経験をさせてもらいました。昇格が決まった時の景色、今でも鮮明に覚えています。




ほとんど成長しなかった3年間、かなり成長できた9か月でした。
この経験から、大事だと思うこと、みんなに意識してほしいと思うことを、自分の3年間への戒めの意味も込めて少しだけ述べさせてください。

   自分を箱の中に閉じ込めない
これは以前遼がfeelingsにも書いていましたが、かなり大事なことだと思います。自分は足が遅いから、パスが下手だから。このような思考は思っている以上に成長を阻害している可能性があります。自分のできるプレーの範囲を無意識化に決めてしまっているかもしれないし、ミスをそのせいにして思考停止してしまう可能性があるからです。自分は大学1年生の時によく下手くそと言われました。ボールを回すのには技術よりも頭のほうが大事だと頭ではわかってはいたけど、3年生の時までボールを受けることを怖がり、全然チャレンジしなかったことをとても後悔しています。みんなには箱に閉じこもらず、どんどんチャレンジしてほしいです。

   ミスを深く突き詰める
ア式の選手をみていると、パスミスをよくする→壁当てをする程度の思考でとまってしまっている人をよく見ます。サッカーにおいて100%技術によるミスって思っているより少ないと思います。サッカーの複雑性、スピードに脳が追い付かなくなって判断をミスしていることのほうが多いです。首を振れていなかったから、ポジショニングや体の向きが悪かったから、選択肢を複数持たなかったからミスをしたのかもしれない。何気ないパスやトラップのミスでも突き詰めていけば本当の課題が見えてくると思います。そのためにも練習の90分を本当に大事にして、頭を動かし続けてください。プレーを言語化してみてください。映像を1回だけでなく何回も見直してみてください。きっと新しい発見があるはずです。

   当たり前を深堀りする
自分が今まで当たり前と思っていたプレーは本当に戦術上、正しいのか疑ってみてください。チームが変われば適切なプレーも変わります。ゾーンじゃなくてマンマークの感覚が強い選手、思っているより多いです。他には一般的に当たり前とされているプレー、縦パスを入れたほうがいいとか、DFラインを上げたほうがいいなどについてもそれがなぜなのか考えてみると、判断のミスが減ると思います。佐俣はサッカーオタクになれと言っていましたがまさにその通りです。付け加えるならば、同じ戦術を採用しているチームの試合はみたほうがいいと思います。

   87分にこだわる
サッカーで1人の選手がボールを持っているのは3分と言われています。87分のほうのスキルも意識的に伸ばそうとするといいと思います。筋トレ、ステップワーク、首を振る、DF理論や正しいポジショニングを理解することなど。これらはボールを持っている3分の助けにもなるはずです。特にDFはステップワーク、状況に応じたポジショニング、カバーリングにこだわるといいと思います。



さいごに後輩たちへ
うまくいかなくてもがいている人も多くいると思います。きついとは思いますが、絶対にあきらめないでもがき続けてください。困難を乗り越える過程で得た自信、その先に見える景色は自分の財産になるはずです。
関東昇格の景色はどんなものなのでしょうか。それにチャレンジできるみんなが本当にうらやましいです。
自分もOBコーチとしてできる限りの協力をします。一緒に頑張りましょう。




サッカー人生で出会ったすべての人々に感謝、いつも応援してくれていたすべての人々に感謝、大好きなサッカーを大好きなまま終われたことに感謝
4年 DF 日野雅奈

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