それでも、僕がサッカーをした理由

4年 染谷大河



 1. 序論

 気付けば既に引退を迎えてから3ヶ月が経とうとしている。引退後は、卒論提出・学会への論文投稿などで忙しくしていたこともあって、なかなかサッカーの今までやこれから等について思考するためのリソースが残されていなかったのが正直なところだ。まだもう少し予定は残されているが、少し余裕が出てきたタイミングでこのfeelingsを認めている。担当者には、締め切りを大幅に過ぎてしまったことをこの場を借りてお詫びしたい。

 さて、引退feelingsである。もちろん対外的な発信という意味合いも強いと思うが、筆者はこのfeelingsという場を主に自身の思考の整理に使わせてもらってきた。今回もそれを踏襲しつつも、皆さんへの感謝を述べる場としたい。Feelingsには不適なのかもしれないが、「偶にはこういうフォーマットも良いだろう」と一定の章立てをしてみたので、万が一内容に関心のある読者は、該当する章を選んで読んでいただけたらと思う。内容に全く関心のない方は、第5章まで一気に読み飛ばしていただきたい。

 第2章では4年間を総括し、第3章ではこれからの進路について述べる。第4章で卒部feelingsをまとめた上で、第5章でお世話になった皆さんへの謝辞を述べる。

 

2. 4年間の総括

2.1 全体の振り返り

 これはもう既に何度も書いた話なので改めて書くこともないのかもしれないが、もちろん初めて読んでいただく方もいるかと思うことに加え、入部を考えている人が見たときに少しでも参考になるかと思い、改めて入部の経緯について簡単に振り返っておきたい。

 実は大学入学当初、というよりかは一般入試での大学受験を決めた時から、大学で再びサッカーにコミットするという選択肢は考えていなかった。これは偏に、そこまでサッカー選手としてキャリアを形成するために積み上げてきたものを傍に置いて、学術界への道へと方針転換するという割合大きな決断をしたからには、そこに時間的資本を投資したいと考えていたからだった。テント列を華麗に回避して以降(1号館を出た直後に裏から抜けただけであるが)、何度かコンタクトを取ってもらったがやはりすぐに意向が変わることはなかった。

 詳細はついに思い出せなくなってしまったが、「とりあえずやってみよう」ということで入部を決めることにしたのは、確か5月祭が終わった後である。決め手としては、自分の想像よりもチームのレベルが高かったこと、特に戦術も整備されつつあり自分のやってきたサッカーと親和性が高かったことなどがあった。当時は、1、2年で辞めるかもしれないなどと公言していた気がするが、結局最後までそれが実行されることはなかった。そういうわけで、辞めずにずっと続けてきたわけなのだが、部活動で時間を取られてやりたいことができなかったかと言われると、(記憶が美化されている可能性もあるわけだが)必ずしもそうではなかったという印象がある。もちろん、今振り返れば早くからこれもやっておけばよかったなどと思うこともあるわけだが、これは「強くてニューゲーム」の状態だから気付けることであって、おそらく当時の状態ではサッカーがなくてもできなかったことなのだと思っている。総じて、大学でやるべきこと+αで当時やりたかったことは概ね達成できた気がしている。

 サッカーの方はどうかというと、こちらもとても楽しくやらせていただいた。先述したように、入部前には想像もしなかったほどに戦術は整備されていて、選手のレベルも高かった。何より、その戦術は僕のプレースタイルにフィットしていたことが大きかった。変なプレッシャーも無くのびのびとプレーできる余裕を身につけたことにも起因しているはずだが、高校までにはあまりやらなかったような長距離のディストリビューションなど、プレーの幅も増えた気がしていて楽しかった。しかし、3年後半や4年になるとおそらく本格的な体づくりを継続できていなかったツケが回ってきたのもあって、正直パフォーマンスが上がりきらないままの状態が続いてしまった。何か手を打たなくてはとは思いつつ、追加の時間的リソースを割くことも難しく、パフォーマンスを上げ切れる前にシーズンを終えてしまった。納得できるプレーができなかったことにも悔しさがあったが、何よりチームをもう少し勝たせることができたのではないかという悔しさを感じたし、申し訳なく思っている。とはいえ、総じて見ると一度は離れてしまったサッカーの楽しさをまた味合わせてくれた4シーズンだったと感じる。

 

2.2 大学でサッカーを続けたことの是非

 以上、4シーズンをざっと振り返ったが、大学でもサッカーを続けてみたことの是非について少し考えてみたい。結論から言うと、大学でもサッカーを続けてよかった、と思っている。理由としては、大きく分けて2つある。

 1つ目は、自己表現の場の一つとして真剣なサッカーの場がやはり必要だったのではないかということである。僕は今でこそ偉そうに東大生を名乗り、研究の話なんかしているが、高校時代までは純粋なサッカー人だった。故に、サッカーは僕のアイデンティティーとも言える存在であり、何より自分を表現するための大事な手段の一つである。大学入学時に、結局サッカー部への入部を決めたのも、おそらくこのアイデンティティー、自己表現の場を失うのが怖かったからなのかもしれない。実際に入部していなかったらどうなっていたのかは勿論知り得ないことだ。しかし、時間的リソースを多分に割くことになったが、自分をある程度自由に表現できて、かつ研究活動等からは得られないような刺激を与えてくれたサッカーが無いのは実は辛かったのかもしれないと感じている。

 また、少し話はずれるが、折角皆で集まってサッカーをしているということなのであれば、この真剣なサッカーが皆にとって自己表現の場となるのが無論望ましいはずである。ピッチ外の活動も無論大事にしつつも、ピッチ上では「東大生」としてではなく1人の「サッカープレイヤー」としてもっと貪欲に成長を目指していければ、おそらくサッカーがもっと良い自己表現の場になっていくはずである。自分を見つめて自分の課題にもっと大袈裟に貪欲に向き合ってみても良いのではないだろうか。苦しいプロセスでもあるがその先により高次の自己実現が可能になると思っていて、それにより結果的に皆が「サッカーの楽しさを享受」できるクラブにより近づいていけるのではないかと思った次第である。

 2つ目は、人的環境がかなり自分にフィットした心地の良いものだったことである。多くのfeelingsで同じようなことが語られている気もするので今更感が満載だが、そうはいってもこの点が僕がサッカーを結局続けた大きな理由の一つなのではないかと思っている。サッカーの競技そのものというよりかは、共にプレーする人間が僕とサッカーを繋ぎ止めてくれたと思っている。そう言った意味で、ア式の皆には非常に感謝しているし、一緒にサッカーができて本当によかったと感じている。

 一方で余談的にはなるが、当然これは翻ってこの心地よさが担保されないと容易に人が離れていき得るということを意味していることは確認しておきたい。良くも悪くも組織全体について何も働きかけることをしてこなかったので、偉そうなことを言うつもりは毛頭ないが、この組織でサッカーに関わり続けたいと思える心地よさが、構成員全体に対して担保されるような組織を今後も目指して欲しい。またこの心地よさが全員に担保されるという状態は、一人一人の意識が無いと容易に崩れ得るということは、ここ数年の出来事で明示的に示されたとも思うので、自分を含め改めて気を配る必要があると思った次第である。

 

3. これから

 前章では、4年間全体の振り返りと4年間を終えての所感について述べた。本章では、それを踏まえた今後のステップについて述べたい。

 サッカーについては、実はまだ決められていないというのが正直なところである。前章で、サッカーは自分の大切なアイデンティティー、自己表現の場であると話したが、とはいえ今後も時間をとってサッカーを続けるかどうかは別途検討が必要である。サッカーは生涯できるものであり、今後もサッカーを続けていくことに意味はあると思っているので、何かしらの形で続けることは決めているが、この期に及んでサッカーに多く時間を投資することの是非を決めかねている。単純に考えれば、今後サッカーを続けても直接的に価値を生み出すことはできないのは明らかであり、おそらく「是非」だけで考えたらおそらくサッカーをやらないで、研究活動等に時間を投資した方が良いというのは自明なのだが、サッカーを本気で続けることにはそういう単純な「是非」では表せないような価値があるのではないかなどと直感的に感じるのも事実である。サッカーを続けた方が良いと力強く語ってくれる人もいる一方で、高校時代のチームメイトには就職を機にキッパリとプレーしなくなってしまった人もいる(後悔している人もいたようだが)中で、なかなかに難しい選択である。まだ院試などもあってしばらく動けないが、もうそろそろ結論を出さないといけない時期である。読者の中で思うことがある人は、是非アドバイスやコメントをいただけると嬉しい限りである。 

 また、研究の方についても進路報告がてら少し書いておきたいが、先述した通り未だ院試のプロセスの最中であり、進学先も未定である。基本的に、現在の研究室に進み研究を進めつつ、言語処理エンジニアとしてのキャリアも見据えた準備を続けていく所存である。前章での話題に引きつけると、今後はここでの自分の成長により一層貪欲になって、自分をもっと自由に表現できるようにしていきたいという決意である。研究内容についてはここでは流石に書くことはしないが、万が一興味のある方は、僕の新たな自己表現の形の一端として、来る言語処理学会での発表を見ていただけると幸甚である。

 

4. 結論

「ア式に入っておいてよかった。サッカーを続けさせてくれてありがとう。」

「サッカーと違う分野で上にいく。サッカーとの関わり方はもう少し考える。」

 

5. 謝辞

 まず初めに、短い間でしたが一緒にプレーして下さった先輩方に感謝申し上げます。誤解を恐れずに言えば、いい意味で期待を裏切るプレーを見せて下さったこと、ユニークな人々が揃っていたことは間違いなく入部の決め手になりました。僕をまたサッカーに引き戻してくれてありがとうございました。これからも是非よろしくお願いします。

 次に、これからのア式を支える後輩プレイヤー・スタッフ達へ。僕らの代は、今ひとつパワーに欠けていたかもしれない中で、特に現3年を中心に、パワフルにア式を内外で支えてくれてありがとう。もう既に部を去っている先輩方もそうだけれど、ア式で最後まで続けられたのは皆のおかげです。とにかく、ありがとう。

 そして、4年間一緒に戦ってきた同期へ。一緒に練習できていなかったこともあって、なかなかコミュニケーションが取れなかった選手も多かったかもしれないけれど、僕にとっては君たちが学校生活とサッカーを共にする最初で最後の「部活同期」であり、あまり伝わってない(伝えられてない)と思うけど大切な存在です。今後はいろんな進路に進むと思うけれど、気が向いたらこれからも相手してあげてください。

 さらに、一緒にプレーしてコーチまでして下さった先輩GK達も含めて、日々一緒に練習してきたGK陣へ。ずっと一緒に練習しているからという理由だけでは片付けられないぐらいに、一緒にいて心地の良い人しかおらず、いわば心の拠り所になっていました。皆の想像以上に、多分大切に思っています。これからもよろしくお願いします。

 最後になりましたが、4年間の活動をさまざまな形で支援して下さったLB会をはじめとした東大ア式蹴球部に関わるすべての方々に感謝申し上げます。

 

 

Pas à pas, on va loin.

 

東京大学ア式蹴球部 染谷大河





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