スポーツ禁止令

高橋駿平(2年/テクニカルスタッフ/武蔵高校)


 大学1年の4月、これから始まる大学生活に胸を躍らせていた頃、それは見つかった。


「心尖部心筋肥大症」


自覚症状はゼロだし、今まで言われたこともなかった。しかし、どうやら心臓の筋肉が厚いらしい。それゆえ心筋が強すぎるらしい。オーバーキル的なことらしい。


診察の時に「基本的にもう激しい運動はしない方がいい」と言われた。「激しくない運動は"スポーツ"でない」という偏った考えを持つ自分からすれば、無期限のスポーツ禁止令が出たわけだ。医者曰く、当然サッカーは激しい運動、すなわち"スポーツ"に該当するのであった。



気づけば小中高とサッカーばかりしていた。だから自分はサッカーについては自信があった。技術に自信があるというより、ただ漠然と「サッカー」について人一倍知っていると思っていた。高3の10月まで本気でサッカーをしていたことは自分の自慢の一つであったし、そのことを誇りに思っていた。


当時自分は入るサークルや部活を探していた。その時に、もちろんキーワードに必ず「サッカー」を入れて検索していた。運動する気満々。文化系の団体なんて目も通していない。自分にとって極めて自然なことだった。



そんなタイミングでスポーツ禁止令。医者は「東大生だからわかると思うけど」とか言いながら症状を説明した。同時にスポーツ禁止令はあなたにとってそんなにキツくないでしょ感を出してきた。

勉強ばかりしてきて、サッカーなんてちょろっとやっていたくらいに思われていたのだろう。それが非常に悔しかった。

俺がエリクセンとかアグエロだったらもうちょっと深刻なテンションで伝えられたんだろうな、なんて後から思った。



診察を終え、病院の外のベンチでぼーっとしていた。


案外人間絶望を前にすると、悲しい感情は湧かないものである。ただただ漠然とサッカーが自分から離れていく感覚があった。涙も出ない。


帰宅して食事を済ませ、またぼーっとしていた。全てに対してやる気が出ないままなんとなくDAZNを開いて、鹿島の試合を見ていた。もう本気でサッカーはできないのに。でも何か感じるものがあった。この時にもう答えは出ていたんだと思う。


試合後、何かを思い出したかのように急いで携帯を握り、ア式テクニカルの知り合いに連絡をとった。


そこから見学の予定を入れ、気づけばいつの間にか入部していた。見学に行ったくらいから決断していた。多分もうここしかないと。


消極的な理由だと思う。「サッカー×サッカーをしない」という検索をかけた結果、ヒットしたのがア式テクニカルだけだったから入った、それだけ。でも、2年生になった今、自分の決断は正しかったと、今のところ思えている。プレーしなくてもサッカーに関われる。こんなに楽しいことはない。非常に幸せなことだ。



ふと考えることがある。

病気がなかったらア式にも関われなかっただろうし、結果的に病気があってよかったのではないかと。


でもおそらく答えはNo。実を言うと、サッカーがしたくてたまらない。


「サッカーの分析なんかしていて、自分がやりたくならないの?」100億回聞かれるやつである。


ならないわけがない。試合を上から見ていて、俺もこのピッチに立ちたいなと毎回思う。自分が頭をフル回転させて考えた戦術で試合を支配したりとかしてみたい。


だから答えはNo。病気がなかったら多分今頃自分はア式の選手になっているはずだ。


でも現実は変えられないし、この現状を踏まえた上でなら、最高の選択をしたと思っている。後悔なんてある訳が無い。




そんなこんなで自分ももう2年。人に頼りまくっていた1年時とはもう違う。


1年時はわからないことだらけで、なんとか其の場凌ぎのスカウティングをして、監督と話すことすら少し緊張していたような感じだった。


しかしもう2年。色々なことができるようになった。嬉しいことにテクニカルにも後輩が入ってきた。頼られるようにならねば、後輩にも、選手にも、監督にも。




今シーズンの目標は


「お前のおかげで勝った」


と誰かから言ってもらうこと。


「俺のおかげで勝てた」と自分では思っていた東工大戦に関しては、矢島さんにmtgを褒めてもらえたし、試合後に笹さんに「スカウティング通りだった」と言ってもらえた。非常にありがたい。モチベになる。


ただ、残念ながら「お前のおかげ」という言葉を誰からもいただけていない。勘違いだったのかもしれない。というよりまだ足りないのかもしれない。


ということで、今シーズン確実に言わせます。


「お前のおかげで勝てた」


と。




気を遣って誰かが言ってくれることを切に願っております。

コメント

  1. プレーに情熱持つテクニカルの存在意義大きい!頑張れ!

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