誰のためか

「自分のためにサッカーするのもいいが、もう一皮むけて人のためにプレーできるように。」

高校の監督がとある練習後に部員全員に話した言葉です。高校生のときは人のためにプレーするとはどういう意味かピンと来なかったですが、今は自分なりの明確な答えがあります。

今期は多くの方々から期待されているんだな、応援されているんだなと実感する機会がたくさんありました。二部優勝おめでとうとメールを送ってくれた小学生の時のコーチ。試合を見に来てくれた高校の同期、先輩、後輩や大学の友達。来季も期待してるぞと言ってくれたア式OBの方々。インスタで昇格おめでとうとメッセージを送ってくれた仲のいい美容師の(かわいい)お姉さん。「ア式優勝したんでしょ?」と話しかけてくれた普段はあまり喋らない学科同期。そのほかにもたくさんいてここでは書ききれません。ア式や自分の活動を少しでも気にかけてくれる人がたくさんいることに改めて気づかされ、そういう方々の期待を裏切らないように日頃のトレーニングからハードワークと野心を絶えず持って練習に励もうと自分に再度誓いました。これが「人のためにプレーする」に対する僕の答えの半分です。僕が頑張る理由の『もう半分』は以下の通りです。

小学生のころ、僕はサッカー以外何もしていませんでした。夏休みにいたっては朝9時に小学校のグラウンドに行き昼までボールを蹴り、一回家に帰って昼食を取ってまたグラウンドに行き日が暮れるまでボールを蹴っていました。なかなか帰らないので職員室から出てきた先生に「いい加減帰りなさい」とよく言われていました。友達はみんな涼しい部屋でテレビゲームをしたり、どこかにお出かけしたり、中には◯能研のカバンを背負って塾に行っていたりしました。飽きもせず35度を超える炎天下の中、1日中ひとりでボールを蹴っている奇妙な小学生なんて僕くらいでした。
中学校は毎週トイレの壁が壊れるような少々荒れた中学でした。サッカー部も例外ではなく先輩たちはヤンキーみたいな人が多かったし、居心地のいい部活ではなかったです。しかし、いかんせんサッカー馬鹿なのでボールを蹴っている時だけはそういうことを全て忘れることができました。
高校は打って変わって大変充実していました。監督のことは大変尊敬していますし、多くのことを教わりました。チームメートと共有した勝利の喜びも敗北の苦い記憶も忘れませんし、海外遠征などの貴重な経験もたくさんできました。一般的な高校生がEnjoyする「The 青春」みたいなものは僕には微塵もなかったですが、もう一度高校生に戻れるとしてもサッカーばかりやると思います。(別に負け惜しみではありません。)
そんな僕でも高校サッカーを終えた時はかなり燃え尽きていました。「大学は関東リーグにいるチームに行って自分がどこまで通用するか頑張るんだ!」という気持ちは微塵もなく、むしろ「自分ってサッカーばかりやってきたけど、他の可能性も探ってみたい」と強く思うようになりました。行き着いた結論は東大で学問を頑張りたい、でした。しかし、それは「サッカー:勉強」の比重を変えるわけではありません。欲張ってどっちも頑張りたかったのです。高校ではなかなか両立できなかった勉強とサッカーをうまく両立しようと思ったのです。

ここまでが東大ア式に入るまでの大まかな経緯ですが、最初の二年間はなかなか結果が出ませんでした。一年目は一部で18試合中わずか2勝。2年目は2部で屈辱の6位。この成績では「僕は東大で勉強もサッカーも両方頑張っています」と自信を持って言うことは不可能でした。そもそもろくに試合すら出れていなかったですし。
それでは今季はどうでしょうか。おそらく自分や応援してくれるたくさんの方々のためだけにサッカーをしていたら今季は充実のシーズンだったと思います。見にきてくれた方々に多くの試合で勝利を届けることができましたし、個人としてもリーグ優勝に貢献したという自信はあります。
しかし、です。東大サッカー部を目指す全国の高校生、浪人生にとって2部優勝がどれほどの価値を持つでしょうか。かつての僕のように大学で勉強を頑張りながらサッカーも高いレベルで頑張りたいと思っている彼らに『東京都2部優勝』は十分な結果でしょうか。
決して誤解して欲しくないのですが2部優勝に価値がない、などとは一切言っていません。ア式の全部員が優勝に値するし、誇らしいことであることは言うまでもありません。ただ、ア式を特に熱心に応援しているわけではない高校生達にとっては2部優勝はまだまだインパクトが小さいのです。彼らに「ア式ってレベル高いな!俺もア式に入って活躍したいな!」と思わせるには一部で互角以上に闘える、もっといえば関東リーグに手を届かせるチームにならなければいけないと思っています。「東大生なのにサッカーもそこそこ上手いね、すごいね」の精神では彼らには何も響きません。ア式が目指すべきなのは「勉強を頑張ってかつサッカーも強い集団」だと思っています。そうしてはじめて全国の文武両道をめざす東大受験生の目標になれて、一種のロールモデルになれると思っています。大学ではサッカーに絞って頑張ろうか、それともサッカーをやめて勉強に専念しようか。そんな考えではなく、東大で学びかつサッカーも頑張る。「サッカー:勉強」を6:4でも5:5でも4:6でもなく、10:10で頑張る。そういう「無茶だろ、あほか」と言われるようなことに挑戦する姿を全国の高校生に発信することこそが「東大ア式蹴球部だからこそできること」であり、そのために1部での結果が必要なのです。
以上が冒頭で述べた頑張る理由の『もう半分』です。「二兎」を追う全ての高校生のために頑張りたいという事です。

これは口で言うのは簡単です。言うだけならかっこいいし、頑張っているように聞こえます。でも体現するためにはかなりの努力が必要です。他の大学の選手が遊んでいる間も自分は筋トレしなきゃ上回れないし、レポートや課題に追われても、グラウンドに行けば自分の弱点と向き合って100パーセントの力を出さなければいけません。でもこれらの努力は僕にとって全く苦ではありません。サッカーが好きだからです。応援してくれる多くの方々のためだからです。そして、自分と同じようにサッカーも勉強も高いレベルで頑張りたいというエネルギッシュな全ての「未来のア式部員」のためだからです。
来期の1部での挑戦はそういう意味で大変粋に感じています。あとはピッチの上で結果を出せるよう頑張ります。

キラキラ大学生のような「The青春」はまたもお預けのようですね。(別に負け惜しみではありません。)


3年 中村紳太郎

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