サッカーの地平線を広げる-15・16日目-

岡部惇貴(3年/MF/武蔵高校)



登場人物紹介


マルティン 帯同チーム先の第1監督。人格神。人生で3本の指に入る、尊敬できる人物。師匠。

ジェラール 帯同チーム先の第2監督。いじられ役。とにかく親切。アメリカなどでも指導していたらしい。

ナオキ君 同じプログラムに参加したメンバー。1歳年上の先輩。まさかの同郷。

白石さん 同じプログラムに参加したメンバー。みんなの兄貴。社会人のしっかり者。

高田さん プログラムの責任者。約10年スペインで活動する。ポストがタメになる。



15日目
起床。久々にマジでぐっすり寝られた。バイトのせいだったのかもしれない。ぐっすり寝られたということは出発まであまり時間がないということである。着替えていると目にボディシートが入ってきた。そういえばなおき君に貸したまま帰っちゃったな。盗まれたわ。
出発。Googleマップはどこにでも行けるけど、時間設定が鬼。普通にめちゃ歩く乗り換えを2分で提案してくるから、少し早めに出ないといけない。この学びはでかい。意外と時間がない。気づいたらギリギリの時間なのなんなんだろう。まあスペインだしいいか。日本でもやっているけど。でかインゲン豆を警戒しながら急ぐ。この地で指導者だけでなく、スカウティングも勉強できるなんて最高だ。移動中、本を読んだ。スペイン人の子供たちが当たり前にできていることが、なぜ日本の大学生ができないのか?その答えというか、なるほどと思える考えが書かれていた。日本人はサッカーネイティブではない。この言葉だけで何の本かわかる人もいるのかもしれない。
試合会場に到着。立派なスタジアムである。マルティンたちを見つけ、横に座る。スカウティングすべきチームは劣勢。5位のチームと聞いたんだけどな。相手がもっと上なのかな?相手にはアジア人らしきFWCBがいて少し応援したくなった。ククレジャみたいなやつも2人くらいいた。1点先制され、チャンスも作られていた。しかしセットプレーの流れから得たPKで前半終了間際に追いつき同点でハーフタイムへ。5バックを敷いていた割にサイドが脆く、ペナへの侵入を許していた。押し込んだ際、スライドが甘くバイタルでボランチがフリーになれそうな場面もあった。この相手にどんな練習を構築するのか楽しみである。自分たちの試合があるのでハーフタイムで離脱。ジェラールの運転で試合会場へ。ジェラールまさかの絵に描いたような危険運転。高速道路で車間距離めっちゃ詰めるわ、前に追いついたと思ったら車線変更して抜かしにかかるわ。前の車との車間距離が詰まってきているのに一瞬後ろを向いて喋ったり。シンプルに周りの車とスピードが違ったり。車内は和気藹々と喋っている。まあ大丈夫か。一般道を走っている時はそんなことなかったんだけどな。マルティンは車に乗る時にトランクに乗れだの、ギラギラの青い帽子を被せられて写真撮られたり、冗談を言ってくる。なんて良い人なのだろう。ただ上手く返せたことはない。日本に帰る前に上手く返したい。英語の冗談はレベル高いて。試合会場に到着。ここからは待ちの時間。全然ロッカールームが空かない。ここで感じたのがコーチングスタッフの仲の良さ。今日は4人のスタッフが来ていたのだが、みんなで話す時とても楽しそうである。仕事なら仕事だけの付き合いで良い、私情が入ると良くないというタイプもいるかもしれないが、私は仲がいい方が良いのではないかと思った。特にサッカーの指導者なんて1人でできない、対話が必須なのでより強く思えた。暇すぎて植田さんのfeelingsを読む時間すらあった。帰ってゆっくり読もうと思っていたのに。思うところはあったが、最近サッカーの話をしすぎている気がするので書かない。ミーティングをしてアップ。今日はアマドールが先発じゃない。彼は身長155センチくらいしかないアンカー。みんな170センチ以上は確実にある中で闘っている。そんな選手は応援したくなる。推し選手である。彼の技術は高く、戦術理解も他の選手とは一線を画していると思う。チームでも信頼を得ており、チームの中心だと思っていた。どんな意図なのだろう。ただ、マルティンとアマドールがアップ前に話しているのを見ると、しっかり説明しているようだった。マルティンはアマドールのことを息子だよと語っていたし、選手との信頼関係が築けているのが毎日感じられる。試合が始まるのでベンチに向かう。今日はアウェイだから流石にベンチに入れない。そう高田さんと話していた。しかしジェラールがベンチの端っこにいていいよ。ただ何も話すんじゃないぞ、そう言って選手の端っこに座らせてくれた。さあいけるのか。試合開始、今回もコルネジャの選手の方が個の能力は高いようで押し気味に試合を進めていた。すると前半途中、こっちこいよトシキ!そうマルティンに言われて、コーチングスタッフが座っている席に座らせてもらった。近くでマルティンたちの様子が観られるのはとても嬉しかった。すると数分後主審が近づいてくる。なんかもう感じ取れた。これは注意されるな。まあもちろん会話は何も聞き取れないわけだが、ハポン(スペイン語で日本)という単語だけ聞こえた。何じゃこの日本人は、登録されてないっしょ。こんなとこだろう。そそくさとベンチを後にした。観客もまあまあいる、クソ恥ずかしい。そんなこんなで1-0でハーフタイムを迎えた。ロッカールームのミーティングに行っていいか迷ったが、注意されたら戻ればいいやと思ってピッチを横断して向かった(ロッカールームはピッチの反対側にあり、横断しなければならなかった)。何も言われずロッカールームに到着。安心したのも束の間、ロッカールームで衝撃の事実が発覚した。相手のフォーメーションが分からなかったのである。試合を観るのに必須であるはずの相手を見るという作業。何してんだろ。これじゃあハーフタイムの修正の意図も分からない。来週は気をつけよう。まあ決して何も考えずに見ていたわけではない。マルティンとジェラールしか見ていなかったのだ。どのように声掛けをするのか、どんな風に試合中振る舞っているのか、サブの選手とのコミュニケーション、2人の役割分担。挙げたらきりがない。後半は広く視野を持つことにした。そこで目についたのは2つ。1つ目、相手のキャプテンである。監督の指示にニコッとしてサムズアップ。絶対いいやつ。でも髪型はコーンロウ。新中3の世代である。日本にいたら確実に不良。さすがスペインだ。2つ目、隣の叔母さんである。ベンチを追い出された後にベンチ裏のスペースで観戦していたところ、隣のおばさんが熱いコルネジャのファンで大声を出して応援していた。よく見るとひまわりの種を食べている。スペインではひまわりの種は普通の食べ物として売っている。食べたことはない。食べるだけなら普通だが、なぜか彼女の周りには大量のひまわりの種。こぼしたのかなと思ったのだが、そんな落ち方ではない。まばらに落ちているのである。そして私は数分後、決定的な瞬間を見た。口に入れる→吐き出す、これを繰り返していたのだ。なるほど、これがスペインか。私は理解するのを諦めた。こんなの視野を広く持ってみることじゃないか。試合はゴラッソが決まるなど、最後相手の猛攻を受けたが32で逃げ切り勝利。雰囲気も最高であった。試合後ロッカールームで集合写真を撮るのだが、ファリと呼ばれるチームのエースに写真を撮ってくれと携帯を渡された。なんか嬉しかった。そんだけ。スタジアムで行われている白石さんの帯同試合が観たいので、スタジアムに行く予定だとジェラールに伝えると、ジェラールが送ってくれた。再びジェラール高速道路アトラクションを楽しみ、スタジアムに到着。と思いきや帰ると思ったのか、その最寄り駅に送ってくれた。荷物を後ろに乗せていたので、スタジアム横で降りたいとは言い出せなかった。散歩もできるしパン屋も寄れる、駅でいいやん。こういう時は物事をプラスに捉えるのに限る。実は今日朝から予定が詰まっていたので、何も食べていない。道中のパン屋でクロワッサンを買う。クロワッサンを買うことに関してはすっかり一人前である。Este,uno! Por favor! Tarjeta! これだけでいける。言語能力は一向に成長しない。まあどうせ日本にいたら忘れるし、しゃーない。クロワッサンを手にし、試合観戦へ向かう。試合はハーフタイム。白石さんがロッカールームから帰ってきたところを見つけたので隣に座る。どうやら白石さんも審判に追い出されたらしい。第1監督のディエゴも一緒に追い出されたらしい。第1監督が追い出されることはない気がするので、追い出されたのか自分から出てきたのかはわからない。ディエゴと3人で観戦。ディエゴは狂人タイプの指導者。大声を上げ指示を出す。挙動は完全にヤバいやつだ。昨日のディエゴを返して欲しい。多分私のことなど目に入っていない。ベンチには第2監督のダニ。ちょっと頼りなさげな若者だ。白熱する試合、興奮するディエゴ。ディエゴはダニに指示を出す、それをダニが選手に伝える。これを繰り返していた。いやそれはもうディエゴやん。言われてみればダニが自分から指示を出す回数は少ないし、声が小さい。ダニはしまいにはスタンドから指示を出し始めた。ささやき女将ならぬ叫び第1監督だろうか。後で白石さんと話したのだが、ディエゴはたくさんのカテゴリーを指導しているので、そろそろこのカテゴリーの監督を辞めるのではないか、とのことだった。だからダニにベンチを任せていたのではということである。なるほど、そういうことなら納得がいく。ダニには頑張ってほしい。誰が言ってんねん。試合後は白石さんを待って帰ることにした。まだ試合はやっていたが、先日高田さんに疲れてそうですねって言われたから早めに帰ることにした。明日も朝からバルサの育成年代を見にいくので休もう。帰る前にマックに行きたいです!そう白石さんに言うと快く了承してもらった。さすが25歳、懐の大きさが違う。クロワッサンを食べたせいで逆にお腹が空いて死にそうだった。メニューも分からないので、写真で1番大きいやつのセットを頼んだ。味はもう最高。バンズとパティが最初からずれていて食べづらさMAXだったが、最高。味が濃いものが食べたかった。マックフルーリーってこんなうまいのね。スペインのセットにはデザートまでついてくるのである。大満足した帰り道。とんでもない細い路地をGoogleマップに案内され歩く。1人ではとても無理だ。3月どうしよう。スペインに来て初めて猫を見た。犬はめっちゃ見るけどな。犬の飼育率は日本より高めな気がする。あと犬がでかい、狼みたいなやつもいる。そんなんで20:30くらいに帰宅。久々に、いや初めてか?こんな早く帰ってきて、アンヘレスと夕飯食べられると思ったのに、アンヘレスは息子とご飯食べに行っていた。まあいいや、いつも通り1人でご飯を食べ、部屋でダラダラ。昨日の動画整理の続きなどをしていた。早く布団に入るって素晴らしい。方法を見つけ、少しずつ海外の試合も見だした。理想のサッカーをしているレバークーゼンの監督であるシャビアロンソと似た考えを持つ(らしい)ルベン・アモリムが率いるスポルティングを観る。霧が濃い。まあサッカーの話はいいや。レバークーゼンとは少し違ったサッカーであった。明日は念願のバルサの育成年代を見に行けるということで楽しみにして就寝。
 
16日目
起床。今日も朝から試合を観に行く。バルサの拠点は遠い。急がねば。アパートを出た瞬間に目に飛び込んできたのはフランスパンが大量に詰め込まれた紙袋を肩に担いで歩くお兄さん。シュールな光景に思わず笑みが溢れる。朝から笑顔にしてくれたフランスパンニキに感謝の意を抱きながら出発。数日前に学ばない者は淘汰されると書いた気がする。ならばやはり私は淘汰されるべき人間だ。Googleマップの乗り換え時間が短いということは分かっていたのに、それに従って出た。案の定乗り遅れた。乗り換えで路面電車を使うことになっていた。バルセロナの路面電車はスタイリッシュでかっこよかった。札幌を思い出した。都電荒川線、久しく乗ってないな。いまだに東京さくらトラムという名前はピンとこない。桜なのかさくらなのか分からなくて検索すると、「東京に唯一残った都電は「荒川線」として長年親しまれてきた。 ところが、20174月に東京都交通局は「東京さくらトラム」という愛称を設定し、それを普及させようと涙ぐましい努力をしている。」と書かれていた。イジられすぎやろ。そんなこんなで到着したのは目的の試合のハーフタイム。バルサの新小学4年生が相手をボコボコにしていた。前半15分で相手を5-0にしてから得点盤係がサボり始めたらしい(配慮なのだろうか)。同じリーグでもバルサはこんな試合ばかりらしい。砂川さんにバルサの育成システムとスペインのリーグシステムについて聞きながら試合を観ていた。次は新高12の世代。マジでア式のお手本になる。みんなで貯金を作って、相手のズレを逃さずフィニッシュまで。もっと観ていたかった。次の試合があるため、前半20分ほどで離脱。バルサBの試合の帰りに翻弄されたあの駅へ向かう。例によってGoogleマップの時間に電車は来ず、行きに乗ったトラムと電車を乗り継いで行くことに。キックオフ直前に到着。今週注目の試合である。バルセロナではコルネジャと同等のレベルの街クラブがもう一つある。先日見たダムというチームである。コルネジャとダムのユース年代のAチーム同士の対決である。会場は満員で盛り上がると聞いていたので、座れないこと覚悟で入ると、まさかの目立つ空席。すんなりと座れた。入場の曲がカッコよかった。あんな曲聴いて入場したら気分が上がるな。試合も戦術的な駆け引きも見られ、見応えのあるものだった。一旦家に帰宅する。乗り換えの際にスーパーマーケットに寄り、水を買った。店には人1人おらず、店員はAirPodsをして対応してきた。確かに態度が悪いのかもしれないが、なんとも思わない。日本もこんな気楽に対応できる国であれば、もっと幸せになる気がする。日本なら晒し上げられて炎上、全国の人気者になっているはずだ。ただルールをしっかり守る、勤勉に働くことが評価される日本がそのようになることはないだろう。外からはそれを評価されているんだし、私が以上のように感じたのも日本に育ってきたからに違いない。日本人の中にはAirPodsニキにイラつく人も多数いるのだろう。家では昼寝をしてからスポルティングの続き、アーセナルとリバプールの前半を観た。1ヶ月ぶりくらいにプレミアを見た気がする。アーセナルとリバプールだったからというのは大いにあるだろう。ハイプレスをかけまくっていた最初の15分はまるで別競技のように感じた。早い、激しい。プレミアってこんなレベルだったっけ?この中で正確で丁寧なプレーを続けているアーセナル、特にウーデゴールはマジでバケモン。15分経って落ち着いてきたが、ちょっと引いた。7時から白石さんと夜のバルセロナ観光に行った。まずはカタルーニャ音楽堂。最初見た時、写真と違いすぎる姿に困惑した。ライトアップが行われていないのかと思った。しかし答えはスマホであった。フィルターでビビットを選んだところ、見ていた写真がそのまま画面に映っていた。これほど現実と違うのなら嘘の情報ではないかと思ったが、そら綺麗に見られたほうがいいよな。次はサグラダファミリアへ向かう。向かう途中の電車の中に1人で電車の中で喋っているおじさんがいた。バルセロナに来てから電車の中で1人で大声で喋っている人を3日に1度は見る。よく見るとなんか売っているっぽい。これもよく見ていた電車で物を売る人。売れるわけないだろうと思っていた。今回の商品はミサンガ。すると椅子に座っていたおばあちゃんが3本も購入していた。家族に見守られながら、ゆっくり選んでいた。みんな笑顔である。こんな家族になれたら幸せなのだろう。もちろんその後彼は私の元へ営業をかけてきたが、何言っているかわからないのでNOと言って断った。NOが言える人間になってきた。サグラダファミリアでは写真をたくさん撮って盛り上がった。25歳の白石さんにカメラの機能を色々教えた。でも私も全然分かってはない。そんな2人で試行錯誤していたら意外といい写真が撮れた。今のスマホカメラはすごい。夜は基本サッカーを観ているので、今日は貴重な時間だった。白石さんは次の木曜日でお別れである。毎週誰かがいなくなるのは普通に寂しい。今日も1日良い時間を過ごせた。白石さんとの旅行は楽しそうだ。というのも写真スポットを一瞬で通り過ぎて行く日本人の男子学生集団がいた。彼らは観光地が楽しめないタイプなんすね、そんなことを話していた。思えばサッカー部にはそういう人間が多い。武蔵サッカー部も然り、ア式蹴球部も然り。平気でもう行こうぜって言える奴らである。白石さんはそんなことない。観光地を楽しめるタイプである。ア式で例えると星のような感じ。落ち着いているのにノリがいい。また星と旅行行きたい。星は彼女と忙しそうなので、いつになるのだろうか。サグラダファミリアに生えていた木に幹は太く、枝が細いアンバランスな木があった。葉がない時期だったので、その違いが如実に現れていた。なんかあの木、気味悪いっすね、そう白石さんに言うと、着眼点が変すぎると言われた。よく皓大にも言われる。だが逆に皓大にしか言われていなかったので、あんま気にしていなかった。2人目、しかも白石さんに言われてしまうと認めざるを得ないのかもしれない。まあ人と着眼点が異なることはおもろいしいいか。ぜひ思ったら伝えて欲しいものである。それは変だぞと。サンパウ病院に寄って、大満足で家路につく。白石さんがコンビニに寄るというので、一緒に中に入ると意外と広い。ずっと買いたいと思っていたバナナが売っていたので購入。これで夜までの空腹に耐えられる。1.53€って買いてあったのに1.92€払った気がする。まあいいでしょう。9時に帰宅。早い。夕食。大量のムール貝を食べる。もうしばらくいいや。リバプールとアーセナルの続きを見る。レベルの高さに呆れる。そして今、これを書いている。昨日の分も書かなくてはならない。意外とこれを書くのは時間がかかる。本当にかかる。でも将来見返すために、しっかり書いていこうと思う。明日から午前中が暇な日が始まる。楽しみだ。サッカーの本質について考えながら、就寝。そういえば気づいたらバナナが7本あったのに3本になっていました。うますぎ。

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