自由

廣瀬貞雄(2年/スペシャリスト/筑波大学附属駒場高校)


スペシャリストとしてア式に入る


元来新しいことを始めることにあまり抵抗はないが、この決断には半年かかった。

高校時代のコーチがア式のテクニカルユニットに所属していたため、ア式のテクのことは認知していた。だが、新歓の時にこの代のテクニカルスタッフが爆増していると聞き、逆張りが発動して入らなかった。その時にスペシャリストという役職を知ったが、義務を免除されるという特別なポジションで入る勇気も自信もなかったため決断できず、頭の中にずっとあった。4月の終わりに方成さんがkernelでsmart goalのピッチをしているのを見て、ア式エンジニアリングユニットの存在を知った。かなり興味をひかれたが、まだ技術を身に着けていなかったので、なあなあになっていた。8月に方成さんとランチをして、エンジニアリングユニットとして活動を始めたが、数カ月経ったあと、やはり現場に関わらないと限界があると感じて、再度部室を訪問し、スペシャリストとしてア式に入ることを決めた。

小学生の時からフットサルやサッカーをしていて、練習や試合で目の前の一つ一つの勝負に勝てることが一番楽しかった。だからこそ、スタッフとしてサッカーに関わることに納得しきれない自分がいたのかもしれない。でも、1年の8月に友達がJリーグの国立での試合の無料招待チケットを当てて、久しぶりにスタジアムに行った際、スタジアムの外まで聞こえるチャントやゴールが決まった際のスタジアム全体が揺れるような盛り上がりを見て、老若男女問わず多くの人をここまで熱狂させられるサッカーというスポーツの魅力を再認識した。

スペシャリストとしてア式に入るということは、多くの義務を免除されたポジションとして入る以上、他の誰よりもア式に価値をもたらす必要があると思っている。自由であるが故の、大きな義務であり責任。少なくとも僕はこう思っている。

だから、あまり知られていないと思うが、授業や研究室にいるとき以外は基本的にサッカーに関することをしている。昨年のリーグ戦が後期に入ってから、前期の試合をデータから振り返る取り組みを大西と始めた。シーズン終了後には監督にシーズンレビューをした。今シーズンもさらに改善していく予定だ。ヨネさんや大智と話して、フィジカルデータをまとめたりもしている。UTokyo Football Lab. (エンジニアリングユニット)でのタスクもある。昨年の春休みにはSFPで数人でGPSデータと試合の動画からタグ付けを自動で行うようなプロダクトを作ったりもした。同期の数人に被験者になってもらった脳波の解析も論文までいけそうだ。ビルドアップの研究ではスポーツデータサイエンスコンペティションで優秀賞をいただいた。今年の春休みはSoccerNetという放送映像から選手をトラッキングするコンペに出る予定だ。これらはすべて、ア式に還元するために行っている。

だが、ア式への貢献は、未だほとんど目に見える形で現れてはいない。他の部員、特にプレーヤーの皆さんからすれば、何をやっているのかもわからないし、ア式の勝利のために本気でやっているのかもわからないよくわからない人だと思う。去年はリーグ戦でなかなか勝てなくて本当に悔しかったし、なかなか現場に還元できなくて無力感に苛まれたりもしている。先進的な取り組みとして興味を持っていただけることも増えてきたし、知名度の向上や対外的なお仕事など、ピッチ外での貢献はいずれできると思う。でもやっぱり、ア式を勝たせたい。ゴールが決まって、勝って、みんなで喜び合う瞬間は、ア式のプレーヤーやスタッフはもちろん、応援してくれる人たちにとって最もうれしい瞬間だと思うし、そういう瞬間を増やすことが、僕のような微妙な立場の人間を受け入れてくれて、優しく接してくれて、自由にさせてくれる懐の広さを持つこの組織への一番の恩返しだと思う。もっとサッカーを理解して、データ分析の技術も磨いて、早く、「エンジニアリングユニットのおかげでア式が強くなった」と言われるようになりたい。

最後に、いつも仲良くしてくれるスタッフの皆さんやプレーヤーの同期、そして優しく接してくれる先輩、後輩のみなさん、本当にありがとうございます。成果が出るまで時間のかかることなので、少し先になってしまうかもしれませんが、もっともっと努力して、ア式の勝利に貢献します。もっと部室にも行くようにするので、これからもよろしくお願いします。

コメント