ギアを上げる

あと半年少しで引退の今考えていることについて。




思い出話をさせてください。



入部2年目。当時1チーム体制だった社会人リーグでは出場機会がなく、秋の大学リーグでは今年こそ公式戦に出たいと意気込んでいた。
しかし初戦、スタメンだったものの自分のプレーのせいで失点し、ハーフタイムに交代。それ以降の試合ではほぼ出場機会がなくなった。

完全に戦力外になり、実力からして当然だったが、入部してから一番落ち込んだ。同期や後輩の活躍を見るのが辛かった。
当時は練習中もネガティブなことばかり考えて集中しておらず、指摘に対して泣き出して迷惑をかけることもあった。ほぼ毎回暗い気持ちで帰宅していた。


そんな中、大先輩のとってぃさんがごはんに誘い出してくださった。

とってぃさんは早稲田と東大という2つのア式女子を渡り歩いた方である。早稲田のア式女子は大学トップレベルの常勝集団で、とってぃさんは大学時代そこでサッカーをしていた。その後院生として東大に来て、プレイングコーチ的な存在としてこのチームを支えてくださっていた。

当日赴いた私は、きっと慰めてくださるのだろうなと情けない気持ちでいた。
すると、ある程度現状を話していたところで、ふいにこんなことを言われた。



「ミラノがサッカーを本気でやるのは大学の4年間だけだから、もっとギアを上げてやってみたら」



衝撃だった。
「辛い状況だけど頑張ってるね」ではなく、「いやもっと頑張れよ」と言われてしまった。

そのときは、傍目から見ても明らかに努力の足りていない自分が恥ずかしかったことを覚えている。
同時に、運動経験が無く、サッカーを本気でやったところで何が残るかわからないし、強度を上げたら怪我でもしかねないため甘い目で見られがちだったと思う(自分自身も不安があった)初心者の私に敢えてそんな言葉を投げてくれたことに、感動した。


それ以降、余計な自意識が抜け、グラウンドに行ってただただサッカーに向き合う、ということに集中できるようになっていった。



サッカーに対しての私の中のギアを上げてくださったとってぃさんに、心から感謝している。





さて。

遂に4年目になり、持っていた仕事を手放して余裕が生まれたここ2,3カ月、明確な目標や課題を設定しかねている自分がいた。こんなんでいいのかと内心焦っていたが、徐々に気付き始めた。 


私、ぜんぜんチームを引っ張れてなくないか?
ピッチ内でもピッチ外でも。


思えば私は引っ張るという形でのチームへの貢献を最初から諦めていた部分があった。

下手だから技術的な貢献はできないし、チームを盛り上げたり厳しい声をかけたりできる性格じゃない。
視野が狭くてチーム全体の仕事に目を配ることもできない。自分がお世話になってきた先輩のような存在になることは難しい。

だからせめてピッチ外での事務仕事、チーム外での仕事くらいでは貢献できるようにしよう、本気でそう思っていた。ミスで迷惑をかけることも多々あったが、当初の予想以上にチーム外の仕事にコミットすることになって、自分なりに懸命にやった。


しかし、そのように歯車の一つに甘んじる意識では、この部を回していくことはできない。
ア式女子は人数が少ない組織なので一人一人が意味のある存在になれるということを売りにしているが、それは一人一人がチームに対して負う責任が重いということでもある。


いつかfeelingsで読んだ文章に

「このア式にいる限りは成長する義務がある」

というものがあり、以前は理解できなかったが、今はその言葉が刺さる。

技術的にも精神的にも非常に未熟だった(今もだけど)私は、このチームから一番多くの恩恵を受けている者だと自分自身常々思ってきたけれど、そうして恩恵を受けておきながら、自身からはポジティブな影響を生み出そうとしないことは、チームに対して損失でしかないのだ。




そう考えると、私がやってきたことはなんだったのか。

私がチームへの貢献になると思いやっていたチーム外での仕事は、実際にチームに対しプラスを生んでいるか否かという観点のみから評価すると、恐ろしくコストパフォーマンスの悪いものだったことは明らかだった。
もちろん意味はあったしその仕事の価値を否定すべきではない。
けれどやはり、チームに対して自分が与えられた影響を考えると、虚しくなった。


いや、本当に虚しいのは、与えられた役割さえこなせばチームへの貢献として十分だと思考停止していた自分の浅はかさだ。




このことに気づくのが遅すぎたことを、今心から後悔している。
もしもっと早く私が変われていたら、


あの瞬間きっと、
あの試合ではきっと、
今このチームはきっと、


そう思うと本当にどうしようもない気持ちになる。


しかし、今からでもできることをやるほかない。




今までとは違うやり方でチームに貢献するということを強く意識し始めて、それはかける労力の多寡だけではなく、ちょっとした勇気や思いやりといった意識の有無で大きく変わるものなのだということに気づいた。

もちろん慣れないことなのでなかなか上手くいかない。
指示をしたり、声をかけたり、盛り上げる声をあげることには、責任と重圧が伴う。今の指摘気分悪くさせてないかな、この提案的外れじゃないかな、そんな不安がかすめるし、実際そうなっていることも多いと思う。
部内の仕事についても、自分がやっていない仕事について気を配ったり口を出したりすることは、想像以上に難しい。


でも、勇気を出してみたら、思っていたよりは自分にもできる気がした。


そしてチームを引っ張るためには、当然、自分のサッカーの能力、技術も向上させる必要がある。今の練習の効率と量では、求める成長速度に足りない。



今からでもできることは無数にある。それは幸福なことでもあるはずだ。





もう一度ギアを上げる。今度は自分だけのためではなく、本当の意味でチームのために。







最後にア式女子のみんなへ。気持ちは同じだと思うけど言葉にして残しておきます。




このチームをもっと大きく強くしていきましょう。







駒場の男子部新入生練を見て初心を思い出した
女子部4年 横堀ミラノ

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