キャラメルフラペチーノ

豊嶋鴻平(1年/テクニカルスタッフ/高松高校)

 とあるカフェの入り口で僕は、サッカーのことを思い出していた。友達がカフェでバイトを始めたため一度行ってみようと思い立ちカフェの前まで来ていたのだ。そこで高校の時の部活がふと頭に浮かんだ。大会の前にはPK戦をよくやった。一人ずつシュートをして、決着がつくまで続ける。僕は基本的に五番目だった。もちろん味方の点が入り、相手が外してくれるのが一番いい。ただ、自分の番が近づくにつれて「味方が全部決めているのに連続を途切れさせたらどうしよう」というプレッシャーもだんだん強くなっていくため、あまりPK戦が好きではなかった。ただ、僕は次第にその緊張感に慣れ、外すことは少なかった。結局、大会で蹴ることはなかったのだが。
 それで、今、僕はカフェの注文口で同じような気分になっていた。
 先ほどから僕の前に並んでいる誰も彼もが同じ注文を繰り返しているのだ。
「お次のお客様のご注文はどうなさいますか?」
「キャラメルフラペチーノで」
「お次のお客様のご注文はどうなさいますか?」
「キャラメルフラペチーノで」
このやりとりが僕の前で四人ほど繰り返していた。
 そこで僕は、あの時のPK戦と同じだなと思った。僕の前に並ぶ人たちが同じように行動するという点ではあのPK戦と同じに思えた。
 こういう場合に正しい行動とは、つまり前に並ぶ人たちと同じように「キャラメルフラペチーノ」を頼むことだ。こうゆう雰囲気には慣れていた。
 ついに僕の番が来た。満を持して、「キャラメルフラペチーノ」を注文する。緊張感はなかった。 
 そこで後ろの女性が前に出た。
「お次のお客様のご注文はどうなさいますか」
「ホットココアで」
ホットココア?僕は一瞬耳を疑った。
失敗した選手をしげしげと眺めないくらいの冷静さは持ち合わせていた。自分のキャラメルフラペチーノを受け取りながら、涼しい顔をしたまま、内心では、「そういう時もある。次回、頑張ればいいんですよ」と失敗してしまった彼女を励ましていた。そう、それは僕の次の選手がPKを外してしまった時のように。

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