燃えよ
竹内拓夢(4年/DF/湘南高校)
感情が動かない。
これが引退した今と現役時代との1番の変化かもしれない。
元々試合中に冷静にプレーし続けられるように、普段から感情をコントロールできるように意識していたから、感情の起伏が激しいタイプではない。だが、サッカーをしている時に感じていた感情はサッカーの無い生活にはほとんど転がっていない。
試合に勝ってチームメイトとハイタッチする時の高揚、ラストプレーで逆転した時の興奮、自分のロングボールに慌てて反転して戻っていく相手SBを見た時の爽快感、得点をとった時の身体中から湧き上がる喜び。
開始早々失点した時の焦り、試合に負けた時の悔しさ、悪いプレーをした時に感じる情けなさ、気の抜けたプレーをする味方への怒り、北川が蹴るPKを見る時の緊張。
これらを感じられることがいかに貴重だったのかを思い知らされている。引退してから怒りを感じたのはパリで20ユーロ騙し取られた時だけだし、悲しさを感じたのは高校生の弟が選手権予選でPKを外したのを見た時だけだ。
後期玉川戦のような劇的勝利の喜びや、前期成城戦のような怒りと悔しさともどかしさがないまぜになったような気持ちはなかなか得られない。
感情の起伏を与えてくれること、これがサッカーの大好きなところだ。
引退してからの一ヶ月暇を見つけては自分達が戦った公式戦の映像を見ている。
当時の気持ちを思い出して悔しくなったり嬉しくなったりしている。
どの試合も本当に思い出深いが、特に印象に残っている試合を以下に書き留めておく。
2023年第16節玉川大学戦。
下位相手との対戦だったが、もし負けたら残留争いまで見える試合だった。この試合はキャプテンが欠場で、自分がキャプテンマークを巻いて試合に臨んだ。前半、相手のスーパーゴールで先制され、こちらはあたふたしていた。
だがハーフタイム、陵平さんの今期ベストミーティングで奮起した我々は、後半実力を発揮し相手を押し込み続ける。谷と北川の大活躍で同点に追いつき、終盤を迎えた。一平と佐々木が大チャンスを外し終わったかと思ったラストプレーで、自慢のエースのシュートで逆転し勝利した。
得点の瞬間は昂りすぎて後輩を投げ飛ばしていた。試合後着替えた暗い体育館みたいな場所で、学年や選手スタッフ関係なく興奮して大声で喜んでいたのがとても印象に残っている。
2023年第14節横浜国立大学戦。
前述の玉川戦と並ぶくらい感情が動いた試合だった。
相手のFWの竹内龍くんは都1部でも屈指のFWで、自分が抑えられるかが鍵になると思って臨んだ。結果、前半にしっかりやられ続け、そこから先制点を取られた。実況の錦谷が「竹内と竹内の対決です」とか言ってる間に、わかっていたのに抑えられなかった悔しさ、焦り、チームメイトへの申し訳なさを感じていた。
後半、チームとして修正したことで押し込めるようになり、個人としてもいいプレーが増えてきた。スムーズに追いつけたものの、逆転までは厳しいかと諦めかけた後半ラストプレー。
洸がゴールを決めた瞬間、人生の興奮の最大値を突破した。
みんなで雄叫びを上げながら洸のもとに集まっていった時、嬉しすぎて涙が出ていた。崩れ落ちる竹内くんの姿がさらに喜びを加速させた。
嬉しかったことだけではない。試合に出れなかったこともあれば、試合に出て負けてしまったことも何度もあった。
2021年第19節東京経済大学戦。
大学4年間でトップクラスに悔しさを感じた試合だ。
そのシーズン自分は常にベンチの2.3番手という序列だった。サイドバック、ボランチで2度スタメンのチャンスを与えられるも、印象に残る活躍ができなかった。
シーズン終盤戦のこの東経戦は過密日程により1.5軍のような編成で臨むことになり、自分もセンターバックでスタメン起用された。3試合目のスタメン。ラストチャンスに気合が入っていた。
しかし前半に3失点し、自分を含めセカンドから出た選手が3人ハーフタイムで交代させられた。またチャンスをつかめなかった自分に失望する中、後半チームは劇的に改善して良い試合を見せ、さらに自分の力不足を痛感することとなった。
追い打ちをかけたのがキャプテンの松波さんのミーティングでの発言だった。「数人変わっただけでチームがこんなに変わる。足を引っ張ってる選手がいたってことだよね。」自分でもわかっていた分、深く突き刺さった。
なぜか真士さんが声をかけてくれた。泣いた。
2023年第16節成蹊大学戦。
今でも悔しい。
関東昇格を目指す上でターゲットになる成蹊大学を相手に絶対に負けられない一戦。個人的には、1年間のベストパフォーマンスと言えるくらい、良いプレーをしていた。ロングボールは全て思い通りのところに飛んでいくし、守備では体を張って相手FWを抑えていた。
チームは前半先制点を取られたものの、後半盛り返し決定機を多く作っていた。しかし後半半ば、兒玉のミスで相手に追加点を取られた。結果試合に負けてしまい、関東昇格には残りほぼ全勝というようなとても厳しい条件に追い込まれてしまった。
大一番に勝ちきれなかった悔しさと、久々のチャンスに奮起していた兒玉が落ち込む姿を見て、本当に胸が苦しかった。
最終年は副将に任命された。
表立った役割はないので、ピッチ内では圧倒的な存在感を見せ、勝利に貢献し続けること、ピッチ外では自分なりにチーム全体を見つつ必要な発信をしていこうと自分で目標を定めていた。
ピッチ内の目標はやってきたことをやり続けるだけなのでシンプルだったが、ピッチ外の目標は意識して自分を変えないと達成できないものだった。
そのために部員とのコミュニケーション量を増やしていこうと意識し、今まであまり関わりのなかったテクの後輩ともコミュニケーションをとっていくようにしたり、Aに上がってきた1年生がすぐ溶け込めるように声をかけてみたり、役割を果たそうとしていた。
しかし、引退して振り返る時間ができた今、副将としてもっとできることがあった、もっとやらないといけないことがあったと感じる。
第3節から第11節までの9試合、6分3敗と一勝もできなかった。
内容としても、勝てる試合で引き分けたり引き分けられる試合で負けたりと、勝ち点を取りこぼし続けた。
ここであといくつか勝ち点を上積みできていれば、と後悔が残る9試合となってしまった。
特に朝鮮・帝京との連戦の頃などはチームの雰囲気下向きで、良くなかった。
部員それぞれが目の前のことに精一杯になってしまい、チーム全体を見て発信し続けられる人がいなくなってしまったのが、本当にもったいなかった。
苦しい時期に、目の前の問題に対処しなくてはいけない「長」をサポートし、大局観をもって発信するのが「副」の役割だったのかなと思う。
それができなかった。
個人的に自分の思い通りのプレーができていない時期で、チーム全体にまで目を配る余裕がなかったのかもしれない。
自分自身の能力を高めることが、全体を把握する広い視野を持つことにつながる。自分にベクトルを向け続ける。これが集団を良い方向に導き、必要とされる人材になる条件だと胸に刻み込む。チームのための個人としてのスキルの強化。今後の人生でのテーマだ。
ア式での4年間は本当に幸せな時間だった。
引退して外からア式を見るようになって強く感じる。
最高の仲間、指導陣に囲まれ勝利だけを目指していく。
今や大人気解説者の陵平さんが指導してくれて、レベルの高い先輩たちがチームを引っ張ってくれて、頼もしい後輩たちがゴールを取ってきてくれて、頼もしい同期が一生懸命ボールを追ってくれて。
サッカーの内容面だけではない。プロチームみたいな告知画像を作ってもらえたこと、試合に出ない部員が本当に勝利を願ってくれていたこと、試合に負けて後輩が泣いてくれたこと、大声を出し続けてくれる応援団の前でプレーできたこと、全てが本当に幸せだった。
ア式のみんなに、ありがとう。
先輩方
常にかっこよく頼り切りでした。吉平さんたちの最終節のベンチのみんなで撮った写真、7回に1回くらいアップルウォッチに出てくるようになっています。ありがとう。
後輩たち
活躍楽しみです。ラストイヤー楽しくサッカーができたのはみんなのおかげです。歌、期待してるよ。ありがとう。
同期
みんな大好きです。ありがとう。キャプテンも良かった。
高校の先輩と一緒に東大のゴールを守ったのは楽しく誇らしかったし、高校同期のフィーリングスはうまくいかない時の心の支えでした、ありがとう。
これでひとまず17年間のプレーヤー人生は終わります。自分を指導してくれた方々、一緒にプレーしてくれたチームメイトに感謝の気持ちでいっぱいです。これからも仲良くしてください。何人かのコーチやチームメイトは大学での試合を見にきてくれて、成長した自分の姿を見せることができてとても嬉しかったです。また、支え続けてくれた両親。高校サッカー引退の時の父からのLINE、大学サッカー引退の時の母からのLINE、涙が出ました。これからは一緒に弟の試合を応援する側に回りたいと思っています。関わってくれた全ての方に感謝申し上げます。
楽しかった。
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