タイムリミット

「選手のプレー可能時間を少しでも長くする」ことがトレーナーにとっての最大目標だな、とおもう。この手段は本当に幅広くて、応急処置によって怪我した選手の復帰を少しでも早めること、専門家との連携を密にしてリハビリを確実に迅速に進めることなどが主として挙げられる。だからこそ怪我対応の知識を増やすし、ほかのスタッフと同等かそれ以上の勉強をしていることが必要となる。基本的には選手の声をしっかり聞いて、彼らの反応や意思に沿った対応をする。でも、大きな視点で見たとき、数年かそれ以下しかない残りの選手生命を「減らさない」ことも重要だな、と最近気付いた。もともとこの感覚はどこかに持っていたけれど、具体的に言語化できたのは高校時代の友人と久しぶりにがっつり話したから。少しサッカーとア式を離れるけれど、自分語りをさせてください。



彼女とは高校だけじゃなくて小学校や住んでた家の場所も同じで、バレーボールもずっと一緒にやってきた。私が中学受験したのをきっかけに一度チームは離れたけど、同じ高校に入学してくれて、再び一緒にプレーできることになった。正直彼女がいなければバレーボールを心の底から好きになることも、10年ほど続けることもなかったと思う。
うちの高校のバレー部は少し特殊で、選手経験のある指導者がいなくて部長が練習メニューからフォーメーションまで全て決めていた。自分たちの納得いくチーム作りに全力で取り組めたからこの部活でよかったな、と感じることも多かったけれど、やっぱりきちんとチームと選手を客観視できる知識を持った人の存在は必要だったと思う。


そう感じるのは、同期でも親友でもあった彼女の選手生命を縮めてしまったから。


最後の1年間はメニューもメンバーも私が決めていたけど、もともと強くなかったチームで勝つために練習を詰め込んだり引退直前に入部した1年生とレギュラー争いをさせて必要以上に無理させてしまったり。中学の頃から怪我の多かった彼女に負担をかけるようなことをたくさんしてしまったし、「足が痛いけど引退まで後少しだし全部メニューをこなす」と言ってきたときもあまり強く止めなかった。
4月の試合でプレーの調子が悪かった彼女を交代させた次の日、連絡がきた。昔からの怪我をこじらせたためドクターストップ、引退。しばらくして部活には毎回来るようになったし最後までちゃんとチームメイトだったけど、彼女にとっての最後のバレーボールは足が痛くてうまくいかなくて途中交代したあの試合だ。誰よりもバレーを好きだったのに、本来みんなが引退する6月まではプレーを続けられなかった。

もちろん、怪我の気配を感じたら自分で動いて悪化を防ぐべきだし、ア式風に言うと「報告を怠っていた」ことは彼女自身の首を絞めることにつながった。でも、周りで見ていた人間が誰か止めていれば、長期的な視点で見てあげていれば、最後の試合を同じコートで迎えられたかもしれない。



受験や大学入学に伴う環境変化でドタバタしていたこともあり、この話はただの思い出として心の中にしまわれていた。でも、お世話になった4年生が後9試合で引退してしまうことを強く実感した時、同じ時期の自分のことを思い出して彼女への申し訳なさや当時への後悔が強く浮かんできた。逆に今彼女のことを考えていると、同じような思いをする人をこれ以上増やしたくない、トレーナー業務とちゃんと向き合おう、という思いが浮かんで来る。



怪我は往々として本当に嫌なタイミングでおこる。大会直前とかスランプの時とか。目先の大会に出たくなる気持ちは本当によくわかるし、長引くとなれば自分の痛みに嘘をついてまでプレーを再開したくなるのもすごく共感できる。だからこそ、私たちトレーナーは一歩引いた目線で選手のことを見ていなきゃいけないし、止めるべきところでは止めなければならない。サッカーのことが好きな選手の気持ちが痛いほどわかるからこそ、その先に最悪の未来が待っているかもしれないという発想を忘れてはいけないのだ。



去年の10月、昇格を決めて喜ぶ先輩達を見て、スタッフってこの瞬間のために存在してるんだなって思った。毎年毎年この笑顔を見たいし、点を決めて喜ぶ選手を見てる時間が一番好き。お世話になった先輩達や大好きな同期、頑張ってる後輩達がサッカーしてるところを少しでも多く見れますように。選手に対して口うるさくなるのはこう思うからこそです。きっと自分にとっては大したことのない怪我だったりなんとなくいける感覚になったりするのだろうけど、もし怪我で声をかけられた時には一歩立ち止まって、サッカー人生全体とチームの両方を考えてください。怪我を恐れていては何も始まらないけど、多少の無理は必要かもしれないけど、最終的に鍵となるのはコンディションの整った自分の体だと思うから。


今の1番の目標は、2ヶ月後、4年生が全員怪我することなく清々しい表情で引退すること。試合前のヘディングパスの前に「参ります」って言ってるのとか、キーパーが楽しそうに練習してるのとか、しゅんえつでニコニコしながら喋ってるのとか、そんな楽しい景色をもっともっと思い出として残せますように。



他のスタッフのfeelings大好きすぎて私は書きたくなかった
2年 土屋香奈

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