これから


「お前のことを見て『うちの息子にもサッカーやらせてみようかな』、 そう思わせる人間になれよ。」 高校時代に監督に言われたこの言葉を僕は今でも忘れていません。 そして、OB コーチをやってくださいと後輩に頼まれた時、なぜかこの言葉が思い浮かびました。

僕はこれまでの人生、ほとんどの時間をサッカーと勉強に費やしてきました。どちらも誰かから強制的にやらされたものではありません。自分が好きでやってきました。 
まずはサッカー。小学校のころからとにかくボールを蹴ることが大好きでした。周りの友達はゲームセンターに行ったり、どこか出かけたり、塾に行ったりしていました。僕はというと真夏だろうが真冬だろうが、友達とだろうが一人でだろうが、年がら年中常にボー ルを蹴っていました。小学生の紳太郎少年の小さい脳みそでも親が 呆れているのを察知できましたね... 
サッカーをやっていれば楽しい経験も悔しい経験もします。高校生の時の最後の試合で負けた瞬間の景色や今シーズンのなかなか勝てなかった日々を忘れることはないでしょう。去年二部優勝が決まった時みんなではしゃいだことも、中学の試合で延長後半に決勝点を決め、一斉にみんなが駆け寄ってきたあの光景も同様に忘れることはないでしょう。挫折や成功体験を積み重ねながら日々自分と向き合う作業の大切さをサッカーから教わりました。サッカーというス ポーツに感謝です。 

勉強についてもサッカー同様、好きで自然とやっていた記憶があります。小学校 5 年生くらいの時、父親が勧めてくれた中学生向けの数学の教科書をなんとなく開いて自分で問題を解いていたことを覚えていますが、あれは今思えば父親の術中にまんまとはまっていますね。大学に入っても興味の湧くままに学習する僕の習性は変わっていません。オフの日やサッカーをしていない時間はプログラミングをしたり、数学や経済、哲学、歴史など多種多様なジャンルの本 を読んでいます。資格の勉強をしたり、英語の本を読んだりもしま す。時には美的センスを磨くためにデッサンの教科書を買って絵の練習なんかもします。(驚異的に絵心がないので...。)今でこそ幅広いジャンルに興味があり、どうすれば勉強したことを自分に素早く取り込んでアウトプットできるかを知っていますが、高校生の頃はそうではありませんでした。興味のない科目の勉強を後回しにし、自分なりの勉強法を確立できないまま受験当日を迎えてしまったような気がします。浪人という悔しい時期がありましたが、サッカーと同様自分と向き合う良いきっかけになったことは間違いありません。(もちろん浪人はしないに越したことありませんよ、受験生の皆さん。)


とまあ、上記のようにここまでの僕の人生は大好きなサッカーと勉強という二つの要素でほぼ 100%出来上がっています。 
サッカーでは最終的には J ユース出身の選手や強豪校出身の選手たちと互角にやれましたし、互角以上に戦えた試合もあります。(もちろん関東リーグレベルの選手たちと互角にやるのは厳しいですが。) 勉強でも東大に入ることができたし、入った後も勉強を地道に続けたおかげで特に劣等感のようなものも感じたことはありませんし、なんなら周りの友達に勉強を教えることもあるくらいです。 
サッカーも勉学もある程度のレベルまで来られたことを自負しています。 
しかし、です。スポーツや勉強をある程度のレベルに引き上げることはそんな特別なことでしょうか。個人的な意見ですが、僕は全然違うと思っています。 
世界のエリートたちを見渡せばスポーツと勉強に全力を注ぐことなど当たり前なことです。オックスフォード大学やハーバード大学のボート部などがその例です。スポーツ・勉強に思う存分熱中するこ と、スポーツ・勉強を通して挫折や成功体験を重ね一人の人間として成長し、アイデンティティ・自尊心を育むこと、これらは世界のエリートたちにとって当たり前なことです。「文武両道」は日本独自のことではなく、世界共通のスタンダードなのだと思います。 
自分の人生がドラマチックに見えているのは所詮自分だけなのだということにこの歳になってようやく気付き始めました。世界のエリートたちは僕なんかよりもっとドラマチックな人生を歩んで、凄ま じいペースで成長しています。世界の 23 歳の中にはすでに起業してビジネスを成功させている者もいます。自分のコンテンツを世界に 向けて発信する人もいます。彼らは決して「勉強だけ人間」、「スポーツだけ人間」ではなく、どちらも全力で楽しんでハイレベルにこなす魅力的な人間ばかりです。 
そんな彼らに刺激され、漠然とではありますが、自分ももっと成長したいと強く感じるようになりました。そう考え始めるようになった明確なきっかけのようなものはありません。たまに学科同期や高校同期からスポーツと大学の勉強を両立していてすごいと言われ、心のどこかで満足していた自分に猛烈な嫌悪感を抱いたからかもしれまん。YouTube で世界の大学生がどれだけエネルギッシュに活動しているかを見てしまったからかもしれません。理由はともかく、現状の自分に不満で、どうにかしてこの閉塞感・停滞感のようなものを打破したいと思い始めるようになったことは確かです。



そうモヤモヤしている時期に突然降ってきたのが OB コーチの依頼でした。OB コーチとして、もう一年ア式蹴球部に残りチームの勝利に貢献してくれないかと依頼されたのです。僕は最初これに消極的でした。というより、はっきり言って OB コーチをやりたくありませんでした。OB コーチをやる時間があれば、他に修論の研究や自分のやりたい勉強ができます。バイトやインターンもできます。他にもやりたいこと挑戦したいことが僕には山ほどあります。世界の優秀な同世代の人たちに刺激を受け、追いつけ追い越せの気持ちで徹底的に自分に投資しようと思い始めたその矢先のことだったので、OB コーチをやっている場合なんかじゃないと正直思っていました。 でも、そんな時に思い出したのが冒頭の高校時代の恩師の言葉でした。自分に頭を下げて OB コーチをやってほしいと頼んでくる後輩に対して「自分の時間を大事にしたいからお断りします」と言ってしまうような僕を見て一体誰が「サッカーやってるやつすげえな、うちの息子にもサッカーやらせてみようかな」と思うのか。志だけ高くて、人の縁を大事にしないような人間を見て一体誰が「サッカーやってるあいつナイスガイだな」って思ってくれるのだろうか、そう考えました。おそらくいないでしょうね。 
なので、もう一年育成チーム(B チーム)の OB コーチとしてこの部に残ることにしました。そして、やるからにはこのコーチ経験を自らの成長に繋げられるように、日々自分をアップデートできるように努力しようと考えました。 
まず自分の卒論の研究時間を死守し、自分が独学したいことをやる時間も確保します。加えてバイトでは他の大学の学生たちとエンジニアの見習いとしてサービスを一緒に開発します(全然、大それたものでもないですよ(笑))。その上で、コーチとしてトレーニングメニューを練習開始約 1 時間前から同じく OB コーチの隼と槇と練り始め、練習中は選手たちにまざって手本となるようなプレーを心がけます。家に帰ったら選手たちの試合の映像を見て彼らの課題を見つけるか、もしくは某 DZN でプロの試合を見て自分のサッカー経験と照らし合わせながら的確なアドバイスを考えます。また、新たに心理学、経営学、栄養学などを自分の読書のジャンルに豊富に取り入れ、自分の経験や見聞きしてきた情報も織り交ぜながらサッ カー以外の要素もチームに還元できるように努めています。以上のことを1週間(=168 時間)の中で、しかも十分な睡眠時間を確保しながらやるのは大変難しいですが、いろんな工夫をひねり出す毎日が自分の成長に繋がっています。 

コーチとしてチームマネジメントや人との接し方についても日々学んでいます。選手たちに厳しいこと、シビアなことを言って発破をかけるのはある程度嫌われる覚悟がないとできないですが、これも自分の仕事だと思って割り切っています。選手たちと距離が近すぎず遠すぎないようにすることも難しいです。たった一言で信用を失っちゃう可能性だってあるので選手たちにかける言葉も気を抜かないようにしています。



「お前のことを見て『うちの息子にもサッカーやらせてみようかな』、そう思わせる人間になれよ。」
僕は今でもどんな人間がこれに該当するのか明確な答えを持っていませんが、ひとつ分かっているのは僕がまだそのレベルに達していないということです。
では、僕は何をしたら良いのでしょうか。 海外留学しますか?起業しますか?本でも出版しますか? 

もちろん、将来的な選択肢としてはアリでしょう。 
でも、まずは目の前に転がっているチャンスを生かします。後輩の内倉くん(現主将)が自分なんかに OB コーチをやるチャンスを与えてくれました。忙しくはなりますが、その忙しさは自分の殻を破るチャンスです。自分ではなく誰かのために時間を割いて、チームをリード、サポートする経験はなかなかできません。 
僕のことを見て子供にサッカーをやらせてみようかなと思わせられるかどうか、それは僕の「これから」次第です。 
この一年で自分がどう変わるか楽しみです。




〜最後に〜 
後輩のみんなに何か先輩らしいことを言いたいところですが、特にありません。(笑) 
僕もみんなと同様、一生懸命成長できるように頑張ります。もう一 年よろしく、そして一緒にサッカーできて楽しかったです、ありがとう!
同期のみんなに一言。 おっさんになってもたまには一緒にボール蹴ろうぜ、飲み会もいい けどさ。
LB会をはじめ、ア式蹴球部に関わる全ての方々に感謝の意を込めて feelings を締めたいと思います。
4 年間お世話になりました。本当にありがとうございました。 (ちゃんとLB 会費払います!)





中村紳太郎

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