羊、吠える
しかし、19年間サッカーを楽しみ続けた少年には、過酷な競争社会が待っていた。
1年生。
夏ごろにAチームに上がるも怒られ続け、一瞬で育成に落とされた。
自分の武器と足りないものを認識した。
2年生。
Aチームに在籍するも全く公式戦に絡めず時が過ぎた。
それでも自分が上手くなっている実感があった。
3年生。
1年間通して試合に絡むことができた。
最高の瞬間も経験した。
格上相手に決勝点をあげたあの日のことは一生忘れない。
これだけ見れば、悪くない3年間だったのかもしれない。
それでも、僕にとって最後の年はこの3年間を否定するのに十分だった。
4年のシーズンは下り坂であった。
就職活動が終われば気持ちも晴れて、プレーも良くなるだろう。
今は我慢の時。
楽観的に考えていた。
そんな中、前シーズンとは打って変わるように同期が目覚ましい活躍を見せていた。
双青戦、大観衆の中で健太がゴールを決めた。
1年生から同じクラスだった統が、殻を破ったように生き生きとプレーしてた。
丸はシーズン序盤からスタメンに定着し、FWとしての地位を確立した。
ずみは緊張する様子など一切見せず、敵のストライカーを完封した。
みんなが自信を掴んでいくのが目に見えて分かった。
一方、僕の自信は失われていくばかりだった。
去年まで自分が立っていたピッチがどんどん遠のいていく感覚があった。
このまま終わりを迎えるのが怖かった。
たくやさんが2年前の打ち上げで話していたことを思い出す。
「きっかけさえ掴めば一瞬だから」
試行錯誤を繰り返し、そのきっかけを追い求めた。
まさみのラストシーズンはかっこよかった。
彼のように限られた時間で必死にできることを探した。
よしくんに焼肉をおごってもらった。
「まだ6試合もあるんだろ」
そのささいな一言が僕の焦りを少しながら和らげてくれた。
うちくに相談した。
「やりたくないと思った方を選択し続けろ」
その言葉が迷える僕の行動指針となった。
やれることはすべてやったつもりだった。
そして、2022年10月23日。
試合終了の笛が鳴った瞬間、僕はベンチに座っていた。
最後の試合に出ることができなかった。
何も考えられなかった。
悔しさの涙か、憤りの涙か。
少なくとも、2.3年前に見た先輩たちのようなきれいな涙でないことは確かだった。
顔を上げれば、応援席に両親と弟の姿があった。
会いに行けるはずがなかった。
最後くらい笑顔でありがとうと伝えたかった。
最後くらいかっこいい兄としての姿を見せたかった。
最悪の結末をもって、僕のサッカー人生は幕を閉じた。
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この4年間は間違っていたのだろうか。
引退してから、幾度となく考える。
何においても結末は重要で、過程を覆す力を持つ。
僕の4年間の結果は、望んでいたものとは違っていた。
それでもこの結果を受け入れるだけの覚悟ができていたか。
僕は試されていたのかもしれない。
最後まで自分を信じ続けた。
希望を抱き、逃げることなく奔走した。
それで十分じゃないか。
美談にする必要なんてない。
僕は、僕なりの筋を通したのだから。
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後輩たちへ
サッカーが嫌になりそうだったとき。
楽しそうにプレーする君たちを見て、自分がサッカーをする意味を再確認しました。
気持ちが入らないとき。
育成コーチにアドバイスを乞う君たちを見て、1年生の頃の必死だった自分を思い出しました。
全体練習のあと。
狂ったようにシュート練習する君たちを見て、自分もやっておけばと後悔もしました。
引退の日。
君たちの「ありがとう」の一言で、少しだけ自分が救われた気がしました。
後輩でありながら君たちは、僕に多くのものを与えてくれました。
本当にありがとう。
羨ましいことに、君たちにはまだ時間が残されています。
特に3年生。
最後に笑って終われるように。
これでよかったと思えるように。
自分勝手でいい。
理想を追い求めて、1秒も無駄にせず最後まで突っ走ってください。
応援しています。
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同期へ
自分だけみたいな書き方をしてしまったけれど、みんな順風満帆な4年間ではなかったと思います。
好調時に怪我をしてチャンスを掴み損ねたとき。
積み上げた信頼を一瞬にして壊すミスをしてしまったとき。
試合に出れないことに納得いかないとき。
チームの勝利を素直に喜べないとき。
こんな経験をしたのは僕だけではないと気づいたのは、4年生になってからでした。
みんな苦しかったんだなと少しほっとしました。
最後のセカンドの試合。
引退試合に出るために全員が点を獲るのに必死だった。
何で同期なのに最後まで争わなければいけないんだろうって。
僕らは仲間でありながら、いつも競争相手でした。
お前の活躍を恨んだこともあった。
「同期じゃなかったら」なんて思ったりもした。
それでも。
だからこそ、負けず嫌いの僕はここまで来れた。
みんなが同期であることを誇りに思います。
ありがとう。
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諦めなければ報われることを最後に証明したかった。
悩める後輩たちの希望になりたかった。
それがア式を通しての僕の夢でした。
幸いにも僕の人生は終わっていない。
下り切ったあとは上るだけ。
狼のようにかっこよくなくていい。
今日も羊は、吠え続ける。
西澤吉平
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