笹森貫佑(4年/GK/湘南高校)


日差しは矢のように鋭く、腕を刺す。


延々と続く道をのろのろと進んでいく。

思い切り力を込めているはずの両脚は頼りなさそうにふらふらと上下するだけで車輪は今にも止まりそうである。






ベトナムからラオスに入って早150km。辺りは見渡す限りの草原、そして奥には切り立ってそびえ立つ岩山。


数kmごとに壊れかけのトラックが砂煙をあげて轟音と共に過ぎ去っていく。









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何回泣いたことだろう。



入部したときに思い描いていた未来からは下方修正に次ぐ下方修正だった。





一個上にはキーパーがおらず、同期も基礎がなってない下手くそなやつだった。
染谷さんが抜けたら自分が出るんだろうな。


1年生のとき尊大にもそう想像していた未来はどこへやら。




3年になったころには、下手くそなあいつがスタメンを張り続けていた。











あいつの怪我でやってきたチャンスも二試合目にして自ら手放した。















2年生の代替わり後くらいから3年の前期くらいには、ミスをすることへの恐怖から、ドフリーのセンバにインサイドで転がすだけなのに、体がこわばって上手くボールがつけられないくらいしんどかった。





裏へ抜けたボールをキャッチしようと飛び出した瞬間、全身の力が抜けてそのままゴールにボールが入ってしまったこともあった。


一方、なんで出ているかわからなかったあいつは、めきめきと上手くなっていて、俺よりはるかに出るに相応しいかもしれなかった。














そこから少しずつメンタルが回復してきて、折よく出番まできた大チャンスだったのに。




vs大東
自分一人だけのせいで負けた試合というほかないくらいに自分が全てをぶち壊した。



れおさんが試合中に活を入れてくれたことは忘れない。







もう公式戦に出ることはないかもなと思った。










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もうどれくらいペダルを漕いだだろうか。
サドルに打ち付けられたお尻が痛む。















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昨日と同じように何もかもがうまくいかなくて、練習後知らず知らずのうちに涙が溢れてくる。



みんなから離れて涙を隠す。





仰向けになってふて寝して、涙が乾いたら部室に戻ろうか。














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気づけばぽつぽつと家々があらわれ始めた。
遊んでいる子供達が物珍しそうな目でこちらを見て手を振っている。












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沈んだ僕を助けてくれたのは同じ苦しみを味わっている人たちだった。






どうやったら試合に出られるか一緒に作戦会議した篤さんきっぺいさん久野さん



ひどいプレーした後でも絶対に一言アドバイスくれた丸さんやまさしさんたち




去年の最後それぞれが見せてくれた意地は間違いなく今年の自分の原動力だった。





プレーでは何も貢献できていなくて自信をなくしている時に声を出し続けていることを評価してくれたましろやいしこたち



どんな小さなセーブでも絶対ナイスキーって声をかけてくれるやじとかひかるとか


同じピッチで戦っている時間はそれだけで心が震えるものだった。




練習に向き合う姿勢をプレーがひどい時も評価し続けてくれた三浦さん


そして、公式戦とは何かア式とは何か背中を持って示し続けてくれた某兄貴


愛ある言葉をありがとうございました。





一番辛かった時期を乗り越えることができたのはここに挙げきれないみんなのおかげだった。









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子供達がハローと高い声を上げる。
こちらもハロー、サバイディーと手を振り返す。
見れば大人たちも手を振っている。














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迎えたラストシーズン、始まりはセカンドの試合にすら出してもらえず育成の練習試合からだった。



木曜の紅白戦、存在を忘れられて1秒もプレーさせてもらえなかったこともあった。





それでも、自分のメンタルは今までほど落ちていなかった。







高校のときのgkコーチに久々に会って受けた助言「スーパーなプレーはできないんだからどんな時も80%のプレーができるようにしろ」




言い訳ばかりだった自分にオカピがくれた耳の痛い言葉「自分ができるプレーとできないプレーをちゃんと認識しろ、お前はできていないプレーをできると思ってる」









自分のプレーを総点検した結果、自分の強みは自分がプレーすることではなくて、周りに助けてもらう状況を整え続けることだと再認識した。
















絶対今シーズン1回はチャンスが巡ってくるはず、そこに全てを賭ける。











チャンスは想定よりも早く回ってきた。

開幕戦。
万事如意。完封。






横国戦で一旦ふりだしにもどるも関係なし。絶対にチャンスはまた来る。








武蔵戦でスタメンを取り戻すことに成功。
引き分けや1点差の勝ちと均衡した試合が続いた。





とにかく次の試合に出るためには勝つこと、負けないこと、失点しないことが必要だったから必死だった。




自分が止められないコースのシュートは何本もあったけれど、ほとんどを八代竹内やじの3枚中心にブロック。


隙間を抜けて飛んできた正面のシュートを慌てずにキャッチする。


マイナスのクロスも古川はじめ二列目が驚異的なプレスバック。



失点してもみらいたちがひっくり返してくれる。



いいプレーをすればベンチや応援席から野太い声と煽る声と黄色い声援?







帝京に勝った時の喜びは格別だったな。





最後の二節、インフルやら指が曲がらないやらで体はボロボロだったけれど、自分ができる最善の準備をして這ってでも試合に出たのは、ア式を背負って公式戦に出ることの重さを思い知ったから。

思うところがある人もいたかもしれないけど、自分の中での論理は貫いたのでご海容ください。




最後の大東戦、相手も散々苦しい時を過ごしたであろうキーパーで、ナイスなやつだったなあというのは書いておきましょう。








チームを勝たせるとかそんな次元ではなくて、自分が出られるか出られないかというレベルでしか戦えなかったけれど、勝った日には朝まで寝付けず動画を繰り返し観て、負けた日には失点シーンがプレイバックしては叫ぶという日常でした。





一緒に苦しんでたやつが試合で活躍するのはとても嬉しくて、vs横国で4年生が8人並んだ時には胸が熱くなりました(すぐ胸が痛くなったけど)。












全くもって思い描いた4年間ではなかったけれど、苦しんだ3年間を周りの支えで乗り越えて、ラスト1年でツキが回ってきた4年間だった。













ただ、








昇格を目指し続けられるかの天王山、すべてをかけるはずだった試合。





vs成蹊

自分はピッチに立つことはできなかった。









やはり自分は根本的なところで能力不足で、監督の信頼を掴むまでに及ばなかった。






自分の持てる能力を最大限発揮し、自分の弱点をひたすら隠すことが試合出場に繋がったけれど、それは諸刃の剣で、自分は大学で劇的に成長したという実感を得ることはできなかった。







これからどのような形でサッカーと関わっていくかということにはまだ答えが出ていないが、もっとうまくなりたいというのは素直な気持ちである。
三浦さん、これからもよろしくお願いします。













それが残された宿題です。









ア式に居つづけることをなやんでいる自分へ
そして同じ悩みを抱えている君へ

ア式は全てをかけるのに十分すぎるくらいふさわしい何かだよ
難しいことを考えずに全てを捧げてみる価値はあると思います







両親へ
大学まで何一つ不自由なく部活をさせてもらってありがとうございました。
御殿下に来てくれたり、ライブ配信を観てくれたりと、応援してくれて嬉しかったです。





島田さん、新屋さん、石川さん、染谷さん
自分をア式に引き入れてくれてありがとうございました。感謝してます、これからもよろしくお願いします。




gkの後輩たちへ
兒玉も僕も自分のことで精一杯で、全く気にしてあげられなくてごめんなさい。
これからはgkコーチとして使い倒してください。




竹内
高校よりも長い時間同じピッチに立てて結構嬉しかった




同期たち
なんやかんやで思い入れあります、定期的に集まりましょう





最後に
兒玉、ありがとう















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子供も大人も顔を見合わせてみんな笑顔になっている。








徐々に家の数が増えてきた。
次の村までもう目前。








気づけば太陽は空高く。
そろそろご飯にしようかな。

サバイディー!
コーイ ヤーク キン カオ!









自転車旅のお供はア式のチャント
#21 笹森貫佑

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