頭が悪いんだ
梶本未來(3年/FW/豊島岡女子学園高校)
2025/10/21
いつも通り、家を出る時間から逆算してギリギリの起床。寝ぼけながらの身支度。昨晩作ったルーロー飯を、節約のためにと昼食として持っていく。水筒にお茶を急いで入れる。が、足りないので水道水でかさ増し。スマホに挿さった充電ケーブルをノールックで抜き取る。10分には家を出たかったところ17分に飛び出し。
最寄り駅まで自転車を飛ばす。道中、ズボンのポッケに入れていたスマホを落とし、時間を浪費。もう少しで横のドブ川にスマホが落ちそうだったため、ラッキーと安堵。最寄りに着くとドアの閉まる直前に乗りたい電車に飛び乗れた。階段を一緒に下った隣の男の子と、みごと一緒に電車へダイブイン成功。その動作のあまりのシンクロ度に、間違いなく双子の兄弟だと思われて恥ずかしい。
ドア付近で押し潰されながら、やっと落ち着けたと、スマホの画面をタップ。バッテリー残量あと10%の表示。家でうまくコードに挿せていなかったらしい。20%ならなんとかやり過ごすが、さすがにチャージスポットの初利用を検討。チャージスポットのアプリのインストールでバッテリーの2%消費。チャージスポットを使うにはQRコードを読み込んで登録する必要があるからバッテリーはこれ以上減らせない。チャージスポット関連の検索をあれこれしていたら、気づけば残量5%。
乗り換え駅に到着。いつもならギリギリで乗れない電車が1分遅れていたせいで乗れた。今日はラッキーな日だと浮き立つ。東大前駅で降りる直前、背負っていたリュックの横のチャックが全開なことに気づく。ファスナーを上げ、何事もなかったかのように降車。
授業開始の3分前に教室に到着。教室にはまだ学生3人。一番後ろの席を陣取る。授業開始時刻になってやっと人が増えだす。自分の隣に座ってきた人が、前回の授業で寝息を教室中に響き渡らせていた人だと気づき、今日は寝ないでくれよと祈る。授業中、見慣れない番号から電話がかかってきた。不審に思い、鳴り終えるのを待つ。数分後また同じ番号からの着信。バッテリーをこれ以上減らさないでくれと着信拒否。だがさすがに違和感を覚え、電話番号をタブレットで検索。浦和美園駅の固定電話の番号であった。
頭に?が浮かぶ。浦和美園といえば南北線の終着駅。まさかと思い、床に置いたリュックの中を漁る。財布が入っていない。文字通り、頭を抱える。全開のチャックから落としたのだ。先生の不審がる視線を感じる。他に無くしたものはないかともう一度リュックを漁るが、財布以外は無事そうだ。そこからは授業内容などまともに入ってこない。クレジットカードや保険証が抜かれていたらと思うと気が気でない。早く終わってくれと思いながら授業終了時刻に。
友達のスマホを借りて駅へかけ返す。案の定財布が届いていた。すぐにいつ取りにくるかの確認がされる。向こうの駅員は急かすような口ぶりだ。返答を考える時間を与えられていない気がして咄嗟に「2時間後に取りに行きます」と口が動く。こんなはずではなかった。いつもと変わらず授業を終えて駒場へ部活をしに行くだけだったはずが、財布のために一瞬埼玉までお邪魔しなければならなくなった。しかも片道700円弱。ルーロー飯何個分で元が取れるだろうか。
頭を冷やそうと、一旦友達と学食へ向かう。こんな日に限って、狭くてむさ苦しい農学部食堂には稀に見る長蛇の列が出来ていた。友達は早々に並ぶのを諦め、購買で昼食を手に入れていた。そういえば、私達には学科の控え室というものが用意されているではないか。学科同期と3人で向かう。
控え室のドアを開けるとハンモックには学科のレジェンドが横になっていた。というのも彼は大学生活を引き延ばせるだけ引き延ばしているらしいのだ。駒場時代にも何度も袴姿で自転車を漕ぐ彼の姿を見かけていたので、同じ学科だと知った時は驚いた。もう何個上の人で学年がいくつ上なのかも分からない。いつも和装をしており、とんでもない大きさの荷物を背負っていて、必ず授業に遅れてくるから余計目立つ。不思議な人だ。控え室にはライトニングの充電コードがあるのではという期待もあったが、見つかったのはタイプCのみ。友達の持っているコードもタイプCだけだ。アップルはどうして最近の機種をタイプCに統一してしまったのだろうか。もっとライトニングを普及させた側としての責任と誇りを持ってほしいものだ。
とりあえず腹を満たそうということで、控え室にある小汚いレンジで弁当を温める。温めを待っている間、うちの控え室は隣の部屋と繋がっているのだが、隣の部屋に人がいることに気づく。何かパソコンで作業をしているようだ。しかも彼女の机上にはスマホの充電コードが見える。ライトニングだ。一瞬躊躇うが、後ろから声を掛ける。優しい人だった。快く充電コードを貸してくれた。首の皮一枚繋がった気分だ。数週間前にスマホを忘れて家を出てしまい、電車に乗ってから気づく、といった日があったのだがかなり不便であった。その日はスマホのないせいで、出ていた授業の出席コードも送れなかったのだから。スマホの充電があるだけでもかなり精神は安定する、なんて言っている時点ですでに現代病にかかっているのかもしれない。今日の収支は浦和美園のせいで大幅なマイナス。せめてチャージスポットの利用料は取られたくはなかったので、心の中で小さくガッツポーズ。
スマホを充電コードに差し、昼食の時間に。昨晩味見をせずに作ったにしては上出来の味であった。せっかくなので3人でボードゲームをやることにした。シーカという聞いたこともないゲームだ。3人とも初めてなものだから適当にコマを置いていく。相手のコマをとって全滅させればいいわけであるが、気づけば私の緑チームは赤と黄色から集中攻撃に遭い、簡単に全滅させられてしまった。ただでさえ弱っている人間にこの仕打ちはないぜと、面白くない気持ちにさせられ気づけば浦和美園へ向かうべき時刻になっていた。スマホの充電も多少は溜まっていた。あとは財布を取り返せば今日のミッションはクリア。友達に3限の出席コードを送ってくれと頼み込み、駅へ向かう。
南北線にただひたすら揺られ、終点の浦和美園だ。終点だから大きめの駅なのだろうと思っていたが何もない。どこか寂しい雰囲気を纏った駅であった。迷うことなく落とし物センターへ。
駅員が持ってきたのはなめこちゃんのついた、見覚えのある黒財布。緊張の瞬間。財布のチャックを引く。パステルグリーンのカードがまず目に入る。クレジットカードは抜かれていないとひとまず安堵。それ以外も特に何も抜かれていないようだ。日本人の民度の高さに特大の感謝。
数時間ぶりに手に入れた財布と共にビーリアルを撮る。かれこれ半年以上ビーリアルをやっているわけであるが、誰とも繋がっていない。最初はビーリアルなんて令和すぎるアプリだと拒絶していたのだが、1人でやる分には日記代わりになるなと思い、始めてみた。毎回写真に一言添えて日常の記録としているが、ほとんど1人で写っているものばかりだ。本当はもっと友達といる時にも「ビーリアル撮っていい?」と聞きたいのだが、ビーリアルをやっていると知られると「じゃあ、繋がろう!」と言われてしまう。1人でやっているからこそのリアルな日常なのであって、誰かの目を意識した瞬間にそれはリアルではなくなってしまう、という自らの捻くれた理論をわかってもらえる気がしないし、理由を説明してお誘いを断るのもカロリーが高いので、今なお孤独なぼっちビーリアルを続けている。浦和美園での滞在時間約10分。来た道を引き返す。
4限の開始時刻ギリギリにキャンパスに戻って来ることができた。4限は先生の雑草マメ知識をただひたすら聞かされる授業だ。席に着き、また弾丸トークが始まったよと呆れつつ、「いつも」の日常の波に戻ってきたような気がしてホッとした。
1日の内の出来事なのに文字にするとこんなに長く書けるなんて、やはり人生は面白いなと思う。
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