2016年10月15日土曜日

人知れずスべる男



 去年の秋、feelingsを眺めているとひどく悲しくなったことを覚えている。それは長々しく赤裸々に綴られたある子との馴れ初めから別れまでの物語だった。なんて場違いなことを書くのだろうと思ったが、文字を追うごとに悲しい気持ちが溢れてきた。僕も少年時代に始まって大学卒業に至るまでの少年の物語を一つ知っている。そこまで悲しい話ではない。
   
 昔から何事にも飽きぽかったのだろうか。小学生の頃からちょっと仲良くなった子でも、それ以上仲良くなろうとは思わなかった。誰か特定の子を好きになることに熱心にはなれなかった。 ただ「いいなー、あんな子に好かれるなんて」や「すごいね、モテるね」と言われるのは大好きだった。本当にその子に好かれているかなんて気にもならなかった。好かれていると思われるのが大好きだった。もちろん周りにいたみんなに好かれたわけではない。ただ最初から「あんたとは合わないわね」と面と向かって言ってくる子を見返してやろうという気は起きなかった。そのなか僕は2人の女の子と仲良くなった。もちろんどちらも周りからの評判は抜群に良かった。
 
 一人目はS(仮名)といった。Sは気付いたら僕のそばにいた。かなりの容姿の持ち主であり、 かつ優しく心から信頼できた。Sは誠実であった。ただ誰に対しても優しいわけではないようであった。SはSに対して向きあおうとしない人に対しては厳しく当たった。Sはそんな子であったから、 周りの誰もが「お前ってSにすごい好かれてるよね、どうやったらそうなるの」なんて言ってくれた。ただその実、Sに対して真摯に向き合っていたわけではない。Sの事が好きだったわけではないから。それでも僕は周りの人よりSに気に入られるのがうまかった。Sは誠実であったから僕がSを喜ばせば喜ばせるほど僕を気に入ってくれるようだった。Sに気に入られるほど、周りから褒 められた。その得意な気分が好きだったから、Sが喜ぶようなことをするのは苦ではなかった。Sは気分のムラなんかもなく、常に僕と等身大の気持ちで向き合ってくれる気がした。他の子よりは断然信頼していたし仲も良かった。でもSが好きなわけではなかった。なんとなくそれは違う気がした。僕の気持ちはS以外の子にも向いていたのだ。
   
 それがF(仮名)だった。Fとはクラスが一緒だった。Fは美人であったが、無口であまり人を寄せ付けなかった。みんなもなんとなくFの事が気になるようだったが、Fの友人と言える奴は多く なかった。僕はたまたまFと帰り道が一緒だった。Fは口数こそ多くないものの、周りの友人と比べると僕は比較的好かれているようだった。例のごとく僕は得意げな気持ちになった。Fと付き合えたらどれだけかっこよく見えるだろうか。クラスメイトは「お前Fとデキてるんじゃないか」と 言ってくれた。でも実際にはFはSほど優しくはない。僕の冗談に対してほとんど笑わないし、ツッ コミも入れてくれなかった。僕がスベり続けてるみたいだった。このことはFと僕の秘密だった。 Fに対してそういう鬱憤がたまると、優しいSに慰めてもらうかのようにかまってもらった。Fが好きではなかった。ただ自分でもよくわからなかったが、Fの事は心のどこかでいつも気になっていた。Fのごくたまに見せる笑顔がたまらなく魅力的だった。もっと笑顔が見たいとも思ったけど、 Fは見せてくれなかった。Fはそういう子なんだなと思っていた。
 
 中学・高校ではSとクラスがずっと一緒だった。Fとは中学の2年間はクラスが同じだったが、 高校では一度も同じクラスにならなかった。Sは中高でも相変わらず大人気であったが、僕のことがその中でも好きなようであった。僕はその事実が嬉しかったから、Sがより喜びそうなことをして好感度を着実に上げていった。好きなのかわからないけど、Sと付き合ってみるかとも思ったが、 決まってFの事が気になった。  


 Fは中学生・高校生になると余計笑わなくなった。それでも学校の中ではFは僕のことを気に入っ てくれていたようだった。僕はそのことに少なからず満足していた。そんな折、Fは学校外からも 人気らしいという噂を耳にするようになった。最初はそんな噂信じていなかった。ある日、Fと一緒に学校から帰っていると他校のヤツが馴れ馴れしくFに話しかけてきた。Fの事だから例のごとくシカトするかと思って、僕は黙って様子を見ていた。でもFはそいつと話し始めた。気のせいだろうか、結構親密なようだ。僕といる時より笑っているのか。スベるのがダサく思えたのか、Fに対して真摯に向き合ったわけでもなかったのに酷く嫉妬した。Fの前ではかっこつけてばっかいた。目の前の光景を信じたくなかった。でもFに確かめる勇気なんてなかった。僕はSのもとに逃げ込んだ。 「Sは俺のことが好きなはずだ、大丈夫。Fに俺より好きな人がいたってどうってことない」 でも結局、Fのことが気になった。Fと過ごす時間は欠かしたくなかった。Fは僕といる時たまに笑ってくれたが、それが好意なのかどれほどのものなのか、分からなかった。Fと付き合うのは無理かもしれないけど、Fは僕のことどう思ってるんだろうか。僕はFが多少の好意を僕に抱いていると信じ込むことにした。

 大学生になるとSとの関係は落ち着いた。Sと過ごす時間はほどほどにしてFと過ごす時間を増やそうと思った。社会人になれば付き合わない限り、Fとは離れ離れになって会えないだろう。今のうちにFの笑顔をたくさん見ておこうと思った。時が経ってもFに忘れて欲しくなかったし、僕
にとっても大切な存在でいてほしかった。Fの気持ちは分からなかったけど、高校までに培った関 係に多少の自負があった。でも大学生になったFは僕のことを見向きもしなくなった。いやFは態度を変えたつもりはなかったのかもしれない。ただFを取り囲む奴らは僕より魅力的なやつばっかになって僕の感じ方が変わっただけなのか。もうFは僕の手の届くような存在ではなくなっていたのかもしれない。


 急に僕は気づいてしまった。Fは僕のことなんとも思ってない。Fって俺にとってどういう存在なのだろう。Fがどんな存在なのか、僕が何をしたらFはなんて言って、あれこれしたら喜んでくれた、そんなこと思い出せなかった。Fの前でかっこばかりつけていたことをひどく後悔した。僕の心からFはいなくなってしまいそうだった。なりふりかまっていられなかった。Fが遠くに行ってしまう前に自分をぶつけてみよう。

 Fはそんな思いをぶつけられるのは慣れっこだった。僕の思いは一切響かない。Fが喜ぶこと、 笑うつぼ、好きなこと、嫌いなことを知っている奴が大勢いた。それでも必ずしもFは笑ってくれないようだ。Fが僕に見せていた笑顔なんて最も控えめな笑顔だったのだろう。会釈みたいなものだったのだろう。僕はFの前でスベり続けた。Fはもう頻繁には会ってくれなかった。どうやらがむしゃらにスベっても意味がないらしい。他人とFのやり取りを参考にしたし、Fの好きなことを自分に取り入れて、嫌いなことを自分から消し去ろうとした。ありのままの自分を受けて入れてもらおうなんて思わなかった。ちょっとでもFに気に入られたかったし笑ってほしかった。

 そんな甲斐もあって以前よりもFに気に入られる術を覚えた。でもFは他のやつに対してもっとよく笑ったし、もっとFのために捧げる奴もいた。そいつらと居ると僕はまたスベることしかなかった。Fと会う機会も相変わらず少ない。Fと会えないなか、遠目に僕より魅力的なやつがスベるのを見ていた。自分が本当にFを笑わせられるのか自信がなかった。Fに気に入られていると思えるとこを伸ばそうとした。嫌われていると思えるとこを改善しようとした。あまりうまくいかない。他人よりFに好かれることができるのか。自分は魅力的になっているだろうか。
 やっとFは僕と久しぶりに会ってくれた。高校生まではあまり感じなかったのに、異様に緊張した。僕はまた急に怖くなった。何も話せなかった。自分をひどく恥じた。また一からやり直しだ。 もうFは会ってくれないかもしれない。今度Fに会えたら今度こそは話したかった。次Fに会ったらというイメージを具体的に描いた。何を思ったのか、Fはもう一度会ってくれた。僕はなんとか話し始めた。Fはまっすぐに僕の瞳を覗き込んできた。Fは本当に僕の話を聞いてるのだろうか。でも初めてFが耳を傾けてくれている気がした。と同時に今まで僕の話なんか聞いてなかったのだろうという気もした。僕が話し終えると、Fはほんの少し微笑んでそっぽを向いた。こっちを向いて満面の笑みを見せてほしかった。もう大学生活は終わってFとは離れ離れになりそうだ。あまり時間は残されていない。Fと向き合う時間が短すぎたのか。やり方が間違っていたのか。とにかくFのより素敵な笑顔を見たい。FにFへの募った気持ちをぶつけてみよう。そしたらFはどんな顔をするだろうか。わからない。でもFのその顔、Fの事はずっと自分の心から消えはしないだろう。


Sにはあとでちゃんと謝ろう。


Fをあと1回、笑かしてやろう。



P.S.  僕が読んだ去年のfeelings気になる方は「football(上)」「football(下)」をご参照ください

4年 符 毅修


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