今という時を大切に

自分が生まれてから19年かけてたどり着いた先は東京大学に入学し、ア式蹴球部に入って勉強やバイト、友達と遊ぶことなどをしつつもサッカーを中心とする現在の生活であった。
自分が“今ある自分”になったのはなぜだろう。
サッカーは父や仲の良かったいとこたちの影響もあって幼い頃から大好きで、幼稚園の頃からほぼ毎日ボールを蹴っていたと思う。やめようと思ったこともなく、本当にサッカーが好きだったからサッカーを続けることができる環境が有る限り、いくつになっても真剣にやり続けるだろうということは想像していた。
一方で勉強に関しては、日本一の大学である東京大学に入学するということは4、5年くらい前までは想像もしていなかったどころか、あそこに行くことができる人は選りすぐられた一握りの天才であって、自分は到底行くことができるはずはないとすら考えていたように思う。
そんな自分が東京大学に入学するに至ったきっかけはなんだろうかと考えてみると、それは中学に入って最初の1学期中間テストであっただろう。中学は公立の中学に通っていたのだが、自分が住んでいた地域は小学校の頃から中学受験をする人も多く周りには頭のいい人たちも多くいた。そんな環境の中で、中学の定期テストは初めて校内での順位も出て他人との実力差が数値という形ではっきりと目に見えるということで、「自分は何位くらいなのだろう」と漠然と思いつつ、高いモチベーションで臨んでいた。
「1位だよ」
先生から順位が告げられた。初めてのテストで1番をとることができたのだ。まさか自分が、とは思ったが自分にはそれだけのポテンシャルがあるということがわかり、それ以降のテストは「絶対に負けたくない」「1位は誰にも渡したくない」と思うようになっていた。このように割と高いモチベーションで勉強に取り組んでいた影響もあって、受験時にはある程度レベルの高い学校に進学することができる状態にあった。高校はどこに進学しようかと考えた時、自分の中での条件としてサッカー、勉強ともに高いレベルで取り組むことができる環境が整っているということがあった。そして、その条件にぴったりと当てはまったのが渋谷幕張高校だった。
勉強面に関して、渋谷幕張では多くの人がとりあえず東大を目指してみるという人が多く、学年の半分くらいが東大を第一志望としていた。高校に入った時点で、自分はここの大学に行きたいというような意志はなく、漠然と早慶の付属高校ではなく渋谷幕張に来たのだから早慶以上の国公立に行きたいと考えていた。そうなると条件に当てはまるのは東大と一橋。そうはいっても「さすがに東大は無理っしょ」と思っていたから自ずと目指すところは一橋になっていた。
1年生の頃は明確な目標もなく、高校生になって部活もそれまでと比べると大変だったので勉強は定期テストの前に一気に詰め込んでやる程度だった。当然、詰め込みの勉強の効果は一時的なものでしかないから、テストが終わってしまえば身につけたものは全て消えて無くなっていた。1年生が終わって振り返ってみると、1年間で勉強してきたことはほとんど身についていない。この状況はさすがにやばいな、と思い始めた。
渋谷幕張のサッカー部では月曜以外の週6日活動があって、平日の練習では終わると8時くらいになっている日もあった。加えて、1年を通してリーグ戦があってテスト期間にも試合はやって来る。また、高校サッカー生活の集大成である選手権予選は毎年夏の1次予選を勝ち上がるのは前提としてあって、10月くらいから始まる2次予選でどこまで勝ち上がることができるか、という勝負であったから部活を引退するのは早くても10月くらいだろうという環境だった。
このように受験において、自分はライバルになるような相手と比べると制約があった。もちろん普通にやっていても他の人に勝つことはできない。そこで勉強をすることに対してもっと頭を使うことを意識するようにした。具体的には長期的な視点と短期的な視点で勉強に対してのアプローチを変えていった。
引退が他の人よりも遅いのならば他の人よりも早めに勉強に対する意識を高めていく。一日一日でできることが少なかったとしてもそれを積み重ねていく。そして、その積み重ねが目標達成につながるように受験本番から長いスパンで逆算してやるべきことをプランニングしていく。これが長期的なアプローチ。
それに対して、自分が使うことのできる時間を大切にする。勉強の質を徹底的に高める。わずかでも使える時間を見つけて自分が使える時間をより多く作り出す。このように長期的なプランを効率的に遂行するのが短期的なアプローチ。
このように意識を変え始めたのが高2春頃だったと思う。夏くらいには色々な心境の変化もあって可能性がゼロではないのなら日本一の東京大学を目指すのもありかも、と考えて東京大学を目指そうと明確に決めた。部活があったのはもちろんのこと、自分は高校から渋谷幕張に入ったのだが、高入生は東大に受かるのが厳しいとか言われたこともあり難しい部分はあったが、逆にその分だけやってやろうとか、自分にはそんなの関係ないと思って高いモチベーションで勉強に取り組むことができていた。
高3になると周りの友達はみな突然スイッチが入ったように真剣に勉強に取り掛かった。5,6月あたりになるとちらほら他の部活の最後の大会が始まった。そこで負ければ部活は引退。今まで自分と同じように部活に力を入れながらも勉強を頑張っていた友達は部活を終えて勉強一本に集中し始める。当然焦りはあった。自分だけが置き去りにされているような感覚だった。一方で、部活の方では怪我を繰り返していたこともあり、なかなか試合に出ることができない状況が続いていた。これまで色々なものを犠牲にして取り組んできた高校サッカーをこのまま終えるのは絶対に嫌だった。最後の選手権だけはなんとしてでも出たかった。そんなわけで、部活においても一瞬たりとも気を抜ける状況ではなかった。今思い返せばかなりキツかった。しかし、そんなことを考えている余裕もない。勉強では東大合格に向けて自分が何をやらなければいけないのか、それを試験日から逆算して自分が使える時間を考慮しながら緻密に計画を練る。そして、やると決めたことはどんなに部活で疲れていようと必ずやり切る。サッカーをしているときは100%サッカーのことを考え、終わったらすぐ切り替えて100%勉強に集中する。成功することだけを信じてそれをただひたすら繰り返す。
結果的に選手権予選も一次予選を勝ち上がり、10月の二次予選まで残ることができた。そして迎えた二次予選の1回戦。どうにかスタメンの座を勝ち取り、試合に出場することができた。結果としては延長戦の末に負けてしまったものの、スタンドには受験勉強の合間を縫って100人を超える同級生が応援に駆けつけてくれた。最後の試合としては最高の舞台で、自分の長いサッカー人生の中でも一番楽しく、一番記憶に残る試合となった。本当にここまで本気で部活を続けてよかった。それが正直な、心からの感想。
それからは勉強モードに切り替えてひたすら勉強。他の人よりも遅れているという気持ちがあった分、他のことを考えずに勉強に集中できたし、今まで部活をやりながら勉強をしていたのが、勉強だけに専念できるようになり楽になったこともあってかなり勉強ははかどった。そして、このような部活引退後の猛勉強の成果もあって、ギリギリながら現役で東京大学に合格することができ、今、ここに至る。
“Carpe diem”
これは中学校の担任でありサッカー部の顧問でもあった先生から贈られた言葉だ。古代ローマのホラティウスの詩に出てくる言葉で、「今という時を大切にしろ」という意味らしい。ありきたりな言い方にはなるが人生は一度しかないのだから部活を選んで勉強を諦めるとか勉強に重きをおいて部活において後悔をするということはもったいないように思う。今を大切にし、うまく時間を使って努力をすれば、部活と勉強両方で成功することは可能である。自分の目標を達成する上で制約が課されているのならば、手遅れになる前に早めのうちからどうすればそれを乗り越えることができるのかを突き詰めて考えればよい。そして、自分なりに出した答えを信じて、それをやり抜く。また、何かに真剣に取り組めば、その結果がどうであれ、何か大きなものが得られるはずである。それは部活や勉強に限ったことではないが、そういったチャンスを何かのために諦めることは後悔に繋がらないか、どうにかして両立することは出来ないか、もう一度よく考えてほしい。強い意志があれば自分で道はつくれるはずだから。
最後に東京大学ア式蹴球部では全国の高校生から受験や勉強についての相談や質問を受け付けている。部活を続けながら東大に合格し、大学でもサッカーを続けている部員が対応するので質問などがあればぜひ気軽にメールなどで連絡してほしい。
2年 石野佑介

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