可能性

  
ついにfeelingsが回ってきた。ちょうどシーズンが終わる良いタイミングで依頼がきたので、自分がア式に入ってからの8ヶ月を振り返って思ったことを書く。
 

4月にテクニカルに入った。元々自分はサッカーの分析とか戦術とかが好きでfootballistaとかも高校時代から買って読んだりしていたから、自分ではそれなりにサッカーを分かっているつもりだった。でも、入ってみると実際自分が本とか読んで軽く蓄えた知識と主に「現場」で必要とされる知識や考え方との間には大きなギャップがあった。
 
例えば、前までは試合の振り返りをするにしてもこんな感じだった。
 
「この試合はホームチームのプレッシングが効いていた。アウェーチームの方はサリーしたりして後ろでなんとか数的優位保とうとしていたけど、まあなんかうまくいってなかったね。後、ホームチームのビルドアップの時の布陣はこんな感じ。対してアウェーチームのプレス時の配置はこんな感じだから、ここが噛み合ってなかったよね。だから、そこから前進できていた。後半からはプレスの配置が変わったから、そこからはうまく防げていた感じ。以上」
 
単純に外部から試合だけを眺めて、時系列を追いながらピッチ上で起こった事象を記録すること。これはこれで重要だしやっていて楽しいのだけれど、実際に「現場」で生きる分析をするとなると話が変わってくる。
 
対戦相手のスカウティングをするためには、相手チームの意図を探らなくてはならない。まず前提として直前の1試合だけでは無くそれまでの全試合を含めた文脈というものが存在するし、その上で状態の良さ・悪さを見極める必要がある。そして、チームとしてやろうとしていることはなんなのかピッチ上の事象から判断する。また、やろうとしていることが出来ているのか出来ていないのか。そこに再現性はあるのかもまた重要な判断基準である。
 
例えば「前の試合では相手はこういう配置でプレッシングしていました!それが上手くいっていました!」では無くて、「前の試合では後ろ4枚でビルドアップする相手に合わせてこういう配置をしてきていました。だけど、何試合か前の3枚でビルドアップする相手に対しては配置を変えて、こういう風にプレッシングをしてきています。東大が3枚でビルドアップするならばこっちで来る可能性が高いですね。あ、でも前線で怪我人が出ているのでまたやり方を変えてくるかもしれませんね」と言えるくらいまでは最低見ておかなければならないし、相手チームの監督・コーチのコーチングの声ひとつひとつまで注目してそのチームの意図を掴む。自チームの分析をするにしても、ただただ事実を捉えるのでは無く「どうして上手くいっていなかったのか」とか「どうしたら上手くいったのか」という視点を持って試合を捉えることが求められる。そしてこうした分析が単なる「妄想」にならないように細心の注意を払わなければならない。
 

中々に骨が折れる作業ではあるが、だんだんとやっていくうちに自分の頭が「現場仕様」にアップデートされてきているような気もする。少なくともサッカーの捉え方というのは大きく変わった。プロの試合を観ていても「こっちのチームの意図はこうで、でもこうなっているから今上手く行ってないのだろうな。それを改善するためにはこういうことが必要だろうけど、それを実現するための交代選手がベンチにはいなさそう」とか思えるようになった。
 

テクニカルに入って「現場」を見たから、こんな風にサッカー観が変わった。というより深まった。これは勿論みる人が見れば「当然」と思われるようなことなのだろうが、少なくとも一年前の自分にとっては「当然」ではなかった。そう考えると、自分も少しはサッカーを理解できたのだろうか。

単純にわからなかったことがわかるようになるのは嬉しいし、テクニカルに入ってよかったと思う。サッカーを知れば知るほどサッカーの複雑性からは逃れられないことを知るのもまた、楽しい。コロナの影響もあり遼さんと直接面と向かって話す機会はほとんど無かったが、普段のトレーニングや試合からも色々な深い学びを得られた。
 

ここまでサッカー論的な変化を長々と書いてきたわけだが、ここからは今シーズン自分が経験した実際的な話について反省も踏まえて書く。
 
自分は今シーズン合計で5試合のスカウティングを担当した。
今年は色々と特殊な状況だったこともありテクニカルの一年生が皆何らかの形でスカウティングに関わったが、例年はあまり一年生にスカウティングをやらせていないとの話を聞くと貴重な経験をさせて頂いたと思うとともに、来年以降もっと自分が進化していかなくてはならないと感じる。
 
問題は、「果たしてチームの勝利に少しでも多く貢献できたのか」ということである。答えは恐らくノーだ。もっとできた。もっとこだわって資料なり動画なり作れたし、何よりピッチ上で起きていることを正確に分析する能力、正確な言葉で伝える能力、そして起きうる展開を予測するための引き出しの多さ、この全てがそもそもの部分で足りていなかった。来季は一部で戦えるのだから、もっともっと試合を観て、もっともっとサッカーの勉強をして、チームにとってプレーとはまた別の面でしっかりと戦力になれるようにならなければならない。
 

一橋のコーチをやっている戸田さんが3-1 で勝った東大戦後Twitterでこのように言っていた。
「彼ら(東大)の試合をクソほど見て選手と一緒に必死に準備し臨みました」
 
この試合一橋は5バックを採用し、基本的にブロック守備を敷きながらも少ないチャンスをモノにして実力的には格上の東大に勝った。勿論運が多分に作用したのも事実だが、前線の五角形の守備のところからトレーニングに落としこんで、結果を手繰り寄せる手前のところのプロセスをしっかりと構築した戸田さんには「流石だな」と思わされたし、結果も含めて一橋の「戦略勝ち」と言っても差し支えないだろう。多分今シーズンの一橋のベストゲームだ。敵ながら「この勝ち方は痺れるな」と思った。
 
チームが試合で勝つために用いる計画手段が「戦略」。そして、その「戦略」を実行するための具体的な方法が「戦術」。とすると、この試合での一橋の「戦略勝ち」を5バックでの守備のやり方といった具体的な「戦術」が支えたということになる。ところで我々テクニカルスタッフの仕事は監督・コーチが「戦略」を決定し、「戦術」をチームに仕込むのを助けること。東大が来年一部で戦っていくにあたって、こうした部分で自分はもっとチームに貢献していかなければならない。
 
言ってしまえばスカウティングが当たるとか当たらないとかは1試合単位で見れば割と運だし、それに応じて準備した戦術がうまくハマるかどうかも運に大きく縛られる。でも、だからと言って対戦相手の分析を放棄することが効率的で無いことは今のサッカーのトレンドを見ても証明されているだろう。短期的に見たら運の要素が大きくても、長期的に見ればきっと自分達のやっていることが結果に少しは関わってくるはずだ。
 

東大が少しでも上の順位で来年リーグ戦を終えられるように、東大が勝つ可能性を少しでも上げたい。もっともっと勉強して、引き出しを増やして、適切に新しいことにも挑戦して、来年こそはもっと爪痕を残したい。
 
自分もこうして1年間を色々と振り返りながら書いていると、改めて「俺サッカー好きなんだな」と実感するし、多分今後もその気持ちは変わらない。
 
そう考えると自分が今いる環境というのは非常に恵まれている。そもそも選手がいなかったら自分たちは分析すら出来ないし、色々な人たちのお膳立てがあってこんなに自分の好きなことを自由にやらせてもらっている。だから、サッカー界にどっぷり浸かっていられるこの4年間を自分は大事に使わなければならない。充実した残り3年間にしていきたい。
 

よくよく考えると、今自分が高額なソフトで分析したり、日々楽しく真剣にサッカーのことを学べているのも、テクニカルを立ち上げからずっと発展させてきた偉大な先輩方のおかげだ。彼ら/彼女達の絶え間ない努力に自分が背くことの無いよう、テクニカルを自分たちもまた発展させていきたい。
 
もっともっと自分の専門性を高めて、東大ア式テクニカルをビッグな集団にしたい。
非常におこがましいがそう思う。今は大学サッカー界でも筑波の後塵を拝する形だが、東大ア式テクニカルにしかできないこともきっとあるはずだ。豊富な知的・人的資源を生かし切ればサッカー界全体にインパクトを与えられないこともない。
後からこのfeelingsを見て、「あの頃は自信過剰だったな」とか思うのだろうか。どうだろう。
そう思うかどうかは、これからの自分の3年間の使い方にかかっている。
 

3年後少しでもテクニカルという組織が自分の夢見ているものに近づいているように、正しい行動を取っていきたい。
 
1年 岡本康太郎
 

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