神聖なる地

3年 奥谷勇樹(MF/西大和学園高校)


 東京で一番好きな場所といったら僕の中では一つしか思い浮かばない。東京都文京区後楽1−3−61。ここに構える東京ドームだ。東京ドームといえば、有名ミュージシャンがコンサートを行う場所でもあるが僕にとっては野球場であり、読売ジャイアンツの本拠地である。

 関西生まれ関西育ちの僕と東京ドームの出会いは小学一年生まで遡る。きっかけは父親が見ていた野球中継だった。たまたま見たその試合で野球、そしてジャイアンツの虜となった僕は巨人ファンになり、ドームに試合を見に行きたいという思いを強く募らせるようになった。しかし、甲子園の近くで生活していた僕の周りには当然阪神ファンしかいない。どうやら後から聞くと関西にもそこそこ巨人ファンはいたらしいが自分の近くにはおらず、まるで異端者かのような目で見られていた。だが、長崎のキリシタンが迫害されながらも信仰を深めたように、僕の中のジャイアンツ愛もどんどん深まっていった。

 そして、遂に小学3年生の春。東京ドームと初めて対面することになった。地図も満足に読めない方向音痴な小学生が一人で東京まで向かったのだ。新幹線のチケットを無くして泣きながらも東京に辿り着いた僕にとっては聖地巡礼であり、その時の感動は今でも心に残っている。その時に行ったスカイツリーやサッカーミュージアムの記憶は無いが、12年経った今でも試合の内容を鮮明に思い出せるほどである。その後も定期的に東京ドームを訪れ、東京といえば東京ドームという認識を抱いていた。

 しかし、中学生ともなると部活や塾などの用事が増え、まとまった休みは家族で旅行となり東京を訪れる機会がなくなった。再び東京ドームは僕から遠いものとなってしまったのだ。何とかしてもう一度東京ドームに行きたい。もう甲子園では満足できない体になってしまった僕は大学生になったら東京ドームの近くに住み、巨人の試合をしこたま見ることを決意し、勉学に励むようになった。

 晴れて東京で大学生活を送れるようになり、駒場を勧める不動産屋をよそにドームまで自転車で行ける距離の物件を確保。こうして思い描いていたように、毎日東京ドームへ向かい、溺れるほど巨人の試合を見に行けているのかというと、年10試合ちょっとしか見に行けないのが実情である。ドームの座席に座っているはずだった時間東大のグラウンドで走り回っている。自分はア式蹴球部の部員であり、平日のナイターや休日の試合は部活があり、せっかくの月曜のオフ、冬オフにはそもそも試合がない、という呪われた状態なのである。部活が終わると試合結果を確認するこの状況は関西にいた時と何も変わりがない。年間シートを買うという野望も叶うことはないだろう。行けなさすぎて社会人野球にも手を出し始めたほどである。

 応援しているチームが勝った時の興奮、好きな選手が打った時の喜び。これに似たものを稀ではあるが部活中にも味わうことができる。試合に勝った時。活躍できた時。練習してきたプレーができた時。毎日の練習の中であったり、週末の試合であったりと様々な場面で体感することができる。3年生にもなりこうした瞬間を積み重ねていくことの良さというのを感じている。この部活に入ったことを後悔しているかというと全くもってそんなことはない。野球観戦に並ぶほどというのは盛ったが、これはこれでいいものである。

 これからも東京ドームから約1.5km離れたグラウンドで部活を続けていくだろう。さっきは後悔していないとカッコつけたが、嘘です。今、巨人の調子がいいのでちょっと後悔してる。そんな後悔も胸にア式蹴球部でやり切りたいと思う。

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